OA-34:海洋細菌単離株を用いた増殖期と溶存有機物生成の評価
1北大院環境, 2北大院地球環境
海洋細菌は、溶存有機物(Dissolved organic matter; DOM, 0.2—0.7 _m以下のサイズ)の消費者であると同時に生成者である。巨大な有機炭素プールを構成する海洋DOMの90%以上は生物学的に難分解性のDOM(Refractory DOM; RDOM)であり、近年RDOM生成における海洋細菌の重要性が指摘された。これまでに天然細菌群集培養を用いたRDOM生成実験が行われてきた。しかし、種々の細菌が存在する細菌群集培養では、細菌種により培養中の生理状態が異なるため、DOM生成と細菌の生理状態との関係を評価することは困難であり、微生物学的なRDOM生成の制御要因に関する知見は少ない。そこで本研究では、細菌の生理状態とRDOM生成の関係を明らかにする事を目的とし、易分解性基質を添加した細菌単離株培養実験中の腐植様蛍光DOM(RDOMの一部とされる)の時系列変化から、培養中の細菌単離株の増殖期とRDOM生成との関係を調べた。単離株は、珪藻ブルーム時に細菌群集中で度々優占する海洋細菌Alteromonas macleodiiを使用した。易分解性基質としてグルコースを使用し、培養液には人工海水を使用した。250 mL容のポリエチレンテレフタレートボトルで暗所・25℃で7日間培養し、培養開始後0、6、12、18、24時間、3日、5日、7日に分析試料を採取した。これらの試料に対して細菌数・総有機炭素濃度・溶存有機炭素濃度・DOMの三次元蛍光スペクトル・吸収スペクトルを分析した。細菌株とグルコースを添加した実験区では、細菌数は増加し、24時間目までが対数増殖期、24時間目から7日目までが定常期であった。溶存有機炭素濃度は24時間目まで減少したが、検出限界以下にならず、24時間目以降はほぼ一定であった。すなわち、グルコースは24時間目までに消費され、その後は細菌由来のDOMが残存したと考えられた。培養中のDOMの三次元蛍光スペクトルの変化から、培養時間に伴い増加する3つの腐植様蛍光ピークを同定した。1つの蛍光ピークは対数増殖期のみで増加したが、2つの蛍光ピークは対数増殖期と定常期で増加した。これらの結果から、海洋細菌の増殖期の違いによって生成されるRDOM組成が異なることが示唆された。
keywords:海洋溶存有機物,海洋細菌,単離株培養,炭素循環