PF-079:付加体の深部帯水層におけるメタン生成及び窒素ガス生成メカニズムの地域特性
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西南日本をはじめ、台湾、インドネシア、チリ、米国アラスカ州、米国ワシントン州などの数多くの国や地域には付加体と呼ばれる厚い堆積層が分布している。付加体は、海溝において海洋プレートが陸側プレートの下に沈み込む際に海洋プレート上の海底堆積物がはぎ取られ、陸側プレートに付加し、その後、隆起してできた地質構造である。海底堆積物に由来することから、付加体の堆積層中には高濃度の有機物が含まれている。これまでの調査によって、付加体の深部帯水層には豊富な嫌気性地下水とともに、高濃度のメタンや窒素ガスが存在していることが報告されている。しかし、これらの生成メカニズムについては未だ十分な知見が得られていない。
西南日本の東海、中部、近畿、四国、九州、そして沖縄までの太平洋沿岸の地域には白亜紀から第三紀の海底堆積物に由来する付加体が分布している。本研究では、付加体の分布する静岡県中西部に構築された大深度掘削井において、深部帯水層からの嫌気性地下水と付随ガスを採取し、各種環境データの測定、ガス組成分析、炭素安定同位体比分析、嫌気性地下水に含まれる微生物群集の遺伝子解析、嫌気培養を試みた。そして、付加体の深部帯水層におけるメタン生成及び窒素ガス生成メカニズムの解明を行った。
地下水の環境データを測定した結果、太平洋沿岸の地域の地下水は海水の影響を強く受けていることが示唆された。一方、山岳エリアの地下水は海水よりも天水の影響が強いことが示された。付随ガスの組成分析を行った結果、沿岸と中山間部の地域の付随ガスにはメタンが95%以上含まれているのに対して、山岳エリアの付随ガスにはメタンと共に20〜50%の窒素ガスが含まれていることが明らかになった。付随ガス中のメタンの炭素安定同位体比分析、及び嫌気性地下水に含まれる微生物群集の遺伝子解析、嫌気培養を行った結果、沿岸の地域の付加体の深部帯水層では有機物の熱分解によるメタン生成が行われていることが示唆された。一方、中山間部と山岳エリアの付加体の深部帯水層では水素発生型発酵細菌と水素資化性メタン生成菌が共生することで、嫌気的に有機物が分解され、メタンが生成されていることが示された。また、天水の影響を強く受けた山岳エリアの付加体の深部帯水層では、脱窒細菌の存在も確認され、有機物を電子供与体とする脱窒によって窒素ガスが生成されている可能性が示唆された。
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