PA-021:長野県、中房温泉バイオマット中生態系形成過程における脂肪酸炭素同位体比解析
1東工大・総理工, 2東工大・地球生命研究所, 3東工大・生命理工
水圏環境では微生物による膜状群集構造(バイオマット)が普遍的に形成される。特に温泉は初期地球に類似した環境であると考えられており、生命が誕生して間もない時代の生態系とその進化を推測する手掛かりとして注目されてきている。既往研究では、古環境解析の一手法としてバイオマット中の有機物成分濃度とそれらの同位体比とが分析され、特に脂肪酸とその同位体比は微生物種の代謝を明らかにする手法として用いられている(Osburn et al., 2011)。しかし、複数の微生物種が混在しているために脂肪酸種とその同位体比情報を定量的に扱うことが困難である。また、一部の微生物種では環境条件によって代謝系が変化することにより生成する脂肪酸種の比率が変化する(Zhang et al., 2009)。本研究では、微生物生態系の成長過程に着目し脂肪酸種の濃度及び同位体比を時間毎に比較することで、微生物群集の炭素源と代謝系にどのような変化が見られるのかを検討した。
本研究で扱う試料は、長野県中房温泉源泉付近で発達するバイオマットを一定時間毎に採取したものである。試料は層毎に分離し冷凍保存を行った。脂質抽出法として、凍結乾燥後の粉末試料をジクロロメタン、メタノールで超音波抽出した後、中性画分と酸性画分とに分画した。得られた酸性画分は三フッ化ホウ素を用いてメチルエステル化し、シリカゲルカラムにより脂肪酸メチルエステル(FAME)を分画した。また硝酸銀シリカゲルカラムを用いて不飽和度毎に分画した。各画分についてガスクロマトグラフ質量分析及び同位体比分析を行い、バイオマット中の各脂肪酸種の同定及び炭素安定同位体比における時間的変動を求めた。
本発表では、バイオマットの成長時間及び層毎に対する脂肪酸種濃度及び炭素安定同位体比より、主要な独立栄養生物の炭素固定回路と従属栄養生物の推移とを解析する。
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