PA-015:三陸沖表層海水における微生物群集のトランスクリプトーム解析 -微生物間相互関係に関する研究-
1東京大学大気海洋研究所, 2日本学術振興会学振PD
海洋には様々な系統の微生物群が混在するが、それぞれがどのような生態的役割をもち、群集構造を維持しているか明らかでない。特にいわゆる稀少系統群は、個体数は少ないものの実質的に多様性の維持を担うため、生態的機能や動態の解明が重要と考えられる。本研究は、環境DNA/RNAを用いた群集構造解析に加え、メタトランスクリプトーム解析を通じて潜在的活性が高い系統群の機能を明らかにし、個体群の相互関係及び群集の維持機構の解明を目的とした。
海洋表層の一次生産者として重要なCyanobacteria系統群内で優占したProchlorococcus及びSynechococcusの比較では、16S rDNAではProchlorococcus/Synechococcus比が平均0.05に対し、16S rRNAでは平均2.2と前者の潜在的活性が高い可能性を示した。一方、16S rDNAで検出割合が低く(avg. 0.2%~1.9%)稀少系統群に位置すると考えられた。Deltaproteobacteria SAR324、Deferribacterales SAR406、Richettsiales SAR116 cladesは、16S rRNAでは割合がその2~13倍高くなることが明らかとなった。このように、DNA解析で検出あるいは着目されなかった系統群でも高い潜在的活性を持つ可能性がある。次に、各系統群の相対存在度でSpearmanの順位相関係数を算出し、群集内における系統群間の相互関係を解析した結果、前述の稀少系統群とCyanobacteria系統群の間に強い正の相関が示された。これらの機能的な役割と相互の代謝を通じた関係性を明らかにするため、各ゲノム情報に対しメタトランスクリプトーム配列を相同性検索した。まず前述のProchlorococcusでは光合成、炭酸固定、鉄輸送に加え、ビタミンB12生合成関連遺伝子の発現が確認されたがSynechococcusではほぼ検出されなかった。すなわち一次生産への前者の高い寄与が推察され、16S rDNA/RNA解析で得られた結果を支持した。SAR116ゲノムへの相同性検索では、輸送系で例えばビタミンB12取込関連遺伝子の発現が確認され、生理活性物質のやりとりを通じた相互関係の存在が示唆された。
keywords:海洋微生物生態系,メタトランスクリプトーム解析,ネットワーク解析