PK-198 (JTK):活性汚泥中に潜在する未培養アンモニア酸化細菌の分離培養
早稲田大学大学院 先進理工学研究科 生命医科学専攻
【目的】アンモニア酸化細菌(Ammonia-Oxidizing Bacteria : AOB)はアンモニアを亜硝酸に酸化することでエネルギーを獲得する化学合成独立栄養細菌である。約1世紀前のNitrosomonas europaeaの分離培養を皮切りに,様々なAOBが平板培養法などによって獲得された。しかし,近年の分子生物学的手法の発展に伴い,獲得されたAOBよりも膨大な種類のAOBが検出され,未培養なAOBが環境中に潜在することが判明した。このことから,従来法では培養過程でAOBの多様性が失われ,限られたAOBしか獲得できていないと考えられる。そこで本研究では,新規分離培養手法を用いた未培養なAOBの獲得を目指した。
【戦略,方法】新手法は特定の微生物が形成するマイクロコロニーを選択的に分取し,分離培養を可能にした手法である。既往研究において,排水処理施設の活性汚泥にマイクロコロニーを形成する未培養なAOBが存在することが報告されている。以上の知見を踏まえ,活性汚泥から直接的にAOBのマイクロコロニーを分取することで,未培養なAOBの獲得が可能になると考えた。まず,採取した汚泥を超音波で分散させ,フィルターを介して不純物を除去した。続いて,処理済みの汚泥をセルソーターに供試し,前方散乱光と側方散乱光を指標に,凝集体の大きさと凝集構造の複雑性に基づいて解析を行い,AOBのマイクロコロニーを生きたまま分取した。分取したマイクロコロニーは96ウェルプレートに1ウェルずつ分注し,アンモニアを含有した無機培地で約3ヶ月間,暗条件,静置,室温で培養した。獲得した株は菌種を同定し,系統解析した。
【結果】3ヶ月間の培養の結果,従来法よりも短期間で,4種類のAOBの獲得に成功した。続いて,獲得したAOBを16S rRNA遺伝子解析に基づいて系統分類した結果,4種類のうち,3種類のAOBは新規性が高く,既存株の存在が報告されていない新規なクラスターに属していることが判明した。また,残りの1種類のAOBは既存株に近縁であった。以上の結果から,新手法が従来法と比較し,効率的にAOBを獲得できる画期的な分離培養手法であると言える。
【展望】本研究により,活性汚泥に潜在する系統学的に多様なAOBの存在が明らかとなり,AOBによる新たな生態学的ニッチが形成されている可能性が示唆された。
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