PF-086 (JTK):Multilocus sequence typing(MLST)解析を用いた黄砂バイオエアロゾルの長距離輸送の検証
1金沢大学自然科学研究科, 2金沢大学理工研究域, 3金沢大学環日本海域環境研究センター, 4鳥取大学乾燥地研究センター, 5鳥取大学医学部, 6中国科学院大気物理研究所, 7忠北大学校自然科学大学, 8韓国外国語大学, 9滋賀県立大学理事
近年、黄砂と共に風送される微生物群(黄砂バイオエアロゾル)に学術的関心が高まりつつあり、その生態系及び人健康影響を論じる上で微生物の風送経路を理解する必要がある。これまで、中国大陸-日本列島間の長距離輸送を実証するにあたり、大気微生物群の16S rRNA遺伝子のみの相同性を調べた研究例が殆どで、複数の遺伝子タイプで直接検証した知見はない。そこで、黄砂現象時の日本及び黄砂発生源の砂漠地帯において大気サンプリングを実施し、採取した大気試料から細菌株を多数分離培養し、その複数の多型遺伝子を解析(Multilocus sequence typing解析)する事で、黄砂発生地から日本への長距離輸送を検証した。黄砂発生地(敦煌;タクラマカン砂漠,ツォクトオボー;ゴビ砂漠)及び飛来地(金沢,珠洲,羽咋)において、航空機,係留気球や建物屋上を用いて、大気エアロゾルを捕集した。また、富山県立山に降雪と共に降り積もった黄砂粒子を積雪中から得た。更に、タクラマカン砂漠の砂試料や金沢や小松の水や葉等の試料も採取した。環境ストレスに耐性を持つ耐塩細菌が長距離輸送される可能性が高いと考え、高NaCl濃度の液体培地に大気試料を接種し、選択的に分離培養した。また、先行研究のgyrB遺伝子解析により、長距離輸送細菌としてBacillus subtilisを特定した。B. subtilisは納豆菌としても知られており、蒸した大豆に環境試料懸濁液を撒き、粘りを確認した大豆のみ選択的に分離培養した。培養可能であった全241株の16S rRNA遺伝子を系統分類学的に解析すると、Bacillus属に属す分離株が約67%を占めた。Bacillus属は芽胞形成する事から、芽胞によって大気中の環境ストレスに耐性があると推察できる。次に、5種のハウスキーピング遺伝子を決定し、株レベルでの系統分類学的に解析した。その結果、B. subtilis及びB. amyloliquefaciensの系統樹上で、黄砂発生地と飛来地の大気試料から分離培養した細菌株が99%以上の相同性で近縁となり、データベース上の既知配列とは異なるクラスターを形成した。従って、黄砂発生時の上空には、特有の遺伝子タイプを持つBacillus属の細菌群が浮遊しており、長距離輸送されている可能性が示唆された。
keywords:黄砂,バイオエアロゾル,細菌,Multilocus sequence typing解析