PF-077:深海環境でのパイライト利用微生物群の解明
1神奈川工科大学・工学部・応用化学科, 2海洋研究開発機構, 3静岡県立大学・環境科学研究所
深海熱水活動域には、熱水噴出孔から供給される化学物質と海水との混合によって生じる化学的な勾配によって多様な微生物生態系が育まれている。活発な熱水活動域に見られるチムニーには鉄や硫黄が主要な元素として含まれており、それら固体状の鉄や硫黄は微生物のエネルギー源に利用されていると考えられる。既往の研究において、熱水活動が停止した場所で採取されたチムニー表面の微生物叢は、活発なチムニーの表面に生息する微生物叢とは異なることが報告されており(Suzuki et al., 2003)、検出されたそれら微生物群のエネルギー源は固体状の鉄である可能性がある。本研究では、パイライト(FeS2)をチムニーにみたて、深海の熱水活動域周辺と非熱水活動域の両者において、どのような微生物群が固体状の鉄をエネルギー源として利用できるのか、また熱水の存在がエネルギー源として固体状の鉄を利用する微生物群にどのような影響をもたらすのかを明らかにすることを目的とした。
2014年4月に実施した研究航海にて、伊豆・小笠原弧ベヨネース海丘の熱水活動域と熱水活動が見られない非熱水活動域の二カ所の海底面に、パイライト粉末(粒径50-100 μm)をフィルターに包み設置した。設置からそれぞれ8ヶ月後(2014年12月)、12ヶ月後(2015年4月)に、設置していたパイライト粉末試料を回収した。回収したパイライト粉末試料からDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子解析にて微生物叢を明らかにした。
本発表では、遺伝子解析によって明らかになった熱水域と非熱水域での微生物群集構造の違い、設置期間による群集構造の変化について考察を進め、未解明な点が多い海洋性鉄利用微生物の生態について議論する。
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