PC-049:森林下層に埋没する古い有機物層の微生物群集
1東京大学, 2酪農学園大学, 3産総研
微生物の物質代謝は森林環境の形成に大きく寄与している。土壌表層では微生物による植物リターの分解に端を発して炭素や窒素が循環し、一次生産や養分保持が保たれている。一方、土壌の下層にいくにつれて有機物プールは小さくなり、微生物バイオマスや代謝もまた小さくなると考えられている。しかし、日本の一部の火山性森林土壌では、森林下層に過去には表層であった層が埋没しており、そこには有機物の蓄積が見られる。そこで本研究ではそのような”古い” 有機物層における微生物群集の組成とそこから予想される物質循環特性を明らかにすることを目的に研究を行った。
北海道苫小牧市内の森林にて調査を行った。ここは樽前山の火山灰が堆積して生成した土壌である。深さ約130 cmまでの8000年前と3000年前の火山に由来する”古い” 有機物層(埋没腐植層)と200年前以後の火山に由来する表層の有機物層を含む7つの土層からそれぞれ土壌を採取した。その土壌を用いて、各種理化学性を測定し、微生物DNAを抽出した後、全原核生物が有する16S rRNA遺伝子の定量ならびに大規模シーケンス解析を行った。
土壌の炭素・窒素含量は表層の有機物層と埋没腐植層で同程度であった。埋没腐植層においてもCO2生成と窒素無機化が認められ、微生物による炭素・窒素代謝が確認された。続いて、表層の有機物層と埋没腐植層において土壌1グラムあたり1010オーダーの16S rRNA遺伝子が検出された。16S rRNA遺伝子のシーケンスから推定される微生物組成は大きく異なり、表層の有機物層ではalphaproteobacteria、betaproteobacteria綱細菌が優占する一方で、埋没腐植層ではdeltaproteobacteria、nitrospira綱細菌が優占していた。さらに埋没腐植層では表層の有機物層と比べてメタン生成アーキア、アンモニア酸化細菌・アーキア、硫黄還元細菌の存在割合が多いことがわかった。以上の結果から、森林の埋没腐植層には表層の有機物層とは大きく異なる微生物生態系が広がっていることが推定された。
keywords:土壌微生物,炭素循環,窒素循環,森林