PB-042:インドネシアの水田土壌における脱窒細菌の多様性および活性に与える塩分の影響
1東大院・農, 2Research Centre for Biology, The Indonesian Institute of Science
水田土壌は、細菌による脱窒が起こりやすい環境の一つである。東南アジア最大の稲作国家であるインドネシアには、高塩分の海浜地域水田が比較的多くみられるが、そのような水田土壌における脱窒微生物や関連機能遺伝子に関する情報は不足している。これまでに、インドネシアの高塩分および低塩分の水田土壌に存在する脱窒機能遺伝子(nirK、nirS、nosZ)について、クローンライブラリーを作製し、得られた塩基配列に基づいて系統解析を行なってきた。その結果、これらの機能遺伝子の系統樹には、高塩分の海浜地域水田に由来するクローンが集中するクラスターが認められた。この結果は、高塩分の水田土壌には低塩分の水田土壌とは異なる系統の脱窒機能遺伝子をもつ細菌が存在することを示唆しており、これらの機能遺伝子がコードするNirK、NirS、NosZといった脱窒関連酵素の活性が塩分の影響を受ける可能性を暗示するものである。本研究では、まずインドネシアの高塩分および低塩分の水田土壌から脱窒細菌を分離した。分離された脱窒細菌が所属する属の中には、私たちが知る限りこれまでに日本からの分離例がないものもあったが、日本からの分離例があるものが多かった。次に、これらの脱窒細菌分離株について、0〜3%のNaCl濃度条件下で脱窒率(NO3からのN2O生成率)およびN2変換率(N2OからのN2生成率)を測定したところ、脱窒率がNaCl濃度の影響を受けにくい株もあったが、多くの株ではNaCl濃度の上昇に応じて脱窒率が低下することが示された。一方、NaCl濃度とN2変換率との関係は複雑で、直線性は認められなかったが、N2変換率がNaCl濃度の影響を受ける場合があることが示された。これらの結果から、少なくともNirKおよびNirSの活性は、またおそらくはNosZの活性も、実際の水田において塩分の影響を受けている可能性が考えられた。すなわち、海浜地域水田の窒素循環に塩分濃度が影響を与えることが示唆された。現在、高塩分条件下の水田土壌そのものの脱窒活性を解析しており、発表ではその結果についても報告する。
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