PA-024:地下水中におけるウイルスによる原核生物個体群制御の可能性
1静大・院・理, 2京大院・農
海洋や湖沼環境において、ウイルスによる溶菌は原生生物による捕食と共に、原核生物の個体群動態の制御因子として働くことが明らかになっている(Thingstad, 2000;他)。一方、私たちが研究を進める地下圏において、原核生物の活性は地球化学的にも無視できないことが明らかになってきた(Kato et al., 2009)。その原核生物の個体群動態の制御因子としては、ウイルスによる溶菌の果たす役割は大きいと予想される。しかしながら、地下圏においてウイルスと原核生物の相互作用を明らかにした報告はまだ殆ど例がない。そこで、本研究では地下水を対象とした培養実験を行い、還元的な地下水中においてウイルスが原核生物の数と群集構造に与える影響を評価することを試みた。
富士山南麓の井戸を対象に2014年10月2日、11月26日の2回の観測を行った。現場環境において、ウイルス様粒子(virus-like particles: VLP)数は原核生物数を下回っていた。
採水した地下水を孔径が異なるフィルターを用いたサイズ分画により、原核生物数が等しくVLP数の差が2倍となるような2つの培養区(ウイルス区とウイルス1/2区)を構築した。これを120時間培養した結果、2回の培養実験でともに両培養区で培養48時間から72時間の間において原核生物数が減少し、VLP数が増加したことから、ウイルスによる溶菌が起こったと推察された。10月2日のサンプルについて、培養後に次世代シーケンサーを用いた16S rRNA遺伝子を対象とするアンプリコンシーケンスにより、原核生物の群集構造解析を行った。シーケンスの結果、2つの培養区間で培養後に綱レベルの群集構造に大きな違いはなかった。しかしながら、属レベルでみるとBetaproteobacteria綱のLeptothrix属、Gammaproteobacteria綱のLegionella属の相対存在度が培養後にウイルス区で低くなっていたことなどから、ウイルスは特定の分類群の属レベルでの群集構造に直接あるいは間接的に影響を与えたと推察された。地下水環境において、ウイルスによる溶菌が原核生物の数と群集構造を制御する可能性が示唆された。地下圏において、ウイルスの溶菌による物質循環への影響が考えられる。
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