OB-21:土壌におけるリン可給性と微生物群集の応答
1東大院・農, 2信大院・理, 3長野県上小農業改良普及センター, 4産総研
日本の畑土壌の約半分は、黒ボク土と呼ばれる火山灰土壌で占められている。黒ボク土は物理性や有機物含量の点で作物生産に好ましい特徴を有する一方、植物の三大栄養素の一つであるリンを吸着・不可給態化する性質が強く、作物生産にあたって多量のリン施肥を必要とする。近年のリン鉱石の供給不安・価格高騰に鑑みると、土壌中のリン可給性の向上は、我が国における持続的農業のための重要な鍵になると考えられ、本研究は、このようなリン可給化を担う土壌微生物に光を当てるものである。
一般に細菌は、環境中のリン濃度を感知してフォスファターゼ遺伝子の発現を変動させることが知られ、土壌DNAを対象としたフォスファターゼ遺伝子の組成解析は従来から試みられてきた。しかし、リン可給性と微生物群集構造・機能遺伝子組成の関係を包括的に検討する研究は行われていないのが現状である。
以上を背景とし、本研究においては、①肥料長期連用圃場の黒ボク土、②黒ボク土にC源・N源を添加・培養したマイクロコズム土壌、③褐色森林土にC源・N源を添加・培養したマイクロコズム土壌、の三者を対象として、土壌の理化学性・微生物群集構造・機能遺伝子組成を明らかにし、それらの関係を検討している。まず、16S rDNA配列に基づく細菌の群集構造解析を実施したところ、長期連用圃場の群集構造は均質であった一方、C源・N源を添加・培養したマイクロコズム土壌では、群集構造は著しく不均質となり、Firmicutes門・Actinobacteria門・Proteobacteria門の占める割合には数倍から数十倍もの変動が見られた。同一条件で培養した複数のサンプル間で群集構造が大きく異なるケースも見られた。他方、マイクロコズム土壌のフォスファターゼ活性は、C源・N源の添加後に一旦上昇したのち少しずつ低下していく、という傾向で概ね一致していた。また、グリコシダーゼ・フォスファターゼの活性の関係は、微生物群集の資源配分によって説明可能であると考えられる。
以上より、土壌生態系におけるリン可溶化の担い手は一定しておらず、微生物群集が機能的な「均衡」を保ちながらその組成を変化させているものと考えられる。本発表では、DGGEによる機能遺伝子組成解析、メタゲノム解析、qPCRによる機能遺伝子定量の結果についても可能な限り言及し、上記の考察を多角的に検証することとしたい。
keywords:土壌,リン可給性,細菌群集構造,メタゲノミクス,資源配分