OB-19:牛ふん堆肥化過程における硫黄酸化細菌の分子生態学的研究
東北大学大学院農学研究科
アンモニア揮散は、堆肥化過程のとくに高温期で起こり、悪臭問題だけでなく堆肥中の窒素含量の低下を引き起こす。そのため高温期のアンモニア揮散の効果的な抑制方法の確立が望まれている。そのひとつに、元素硫黄を堆肥に添加する方法がある。堆肥中に存在する硫黄酸化細菌が、添加された元素硫黄を硫酸に酸化する。その結果、アンモニアは硫酸アンモニウムとして捕捉され、アンモニア揮散が抑制されると考えられている。しかしながら、どのような系統の硫黄酸化細菌が堆肥中に存在し、アンモニア揮散抑制に寄与しているのかという、アンモニア揮散抑制の微生物学的なメカニズムの詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、まず硫黄を添加しない通常堆肥に存在する硫黄酸化細菌の生態を明らかにすることを目的とした。
東北大学大学院農学研究科附属川渡フィールドセンターで作成された牛ふん堆肥をサンプルとした。堆肥化初期および高温期に、深さ25-30cmからサンプルを採取し、良く攪拌したのち、DNAを抽出した。抽出したDNAを鋳型に、硫黄酸化酵素をコードする遺伝子soxBを標的としたプライマーを用いて、PCR増幅した。PCR増幅産物のクローニングを行い、堆肥化過程で硫黄酸化細菌の群集組成が変化するかどうか、また、堆肥化初期および高温期に、どのような系統の硫黄酸化細菌が存在するのかを明らかにした。
硫黄酸化細菌の群集組成は、堆肥化初期と高温期で、統計的に有意に異なった。堆肥化初期では、検出されたクローンの41%が中温性硫黄酸化細菌であるThiobacillus aquaesulisに最も近縁であった(相同性82%)。次いで、最適増殖温度37℃の硫黄酸化細菌Azospirillum thiophilumと相同性81%を示すクローンが、ライブラリーの14%を占めた。一方、高温期では、検出されたクローンの70%が、水素酸化細菌のHydrogenophaga属の細菌株が有するsoxBと90-100%の相同性を示した。これらの結果から、硫黄酸化細菌の群集組成は堆肥化過程で変化することが示された。特に、堆肥化初期には中温性の硫黄酸化細菌に近縁な細菌が、高温期には水素酸化細菌に近縁な細菌が、堆肥中の硫黄酸化を担っていると推測された。
keywords:硫黄酸化,高温期堆肥