OA-37:薩摩硫黄島長浜湾内に形成された水酸化鉄マウンドに生息する鉄酸化ゼータプロテオバクテリアの生理生態
1JAMSTEC, 2AIST, 3九大地惑
薩摩硫黄島は九州の南40kmに位置する火山島であり、島内の各所で温泉が湧いている。島の南西部に位置する長浜湾内においても海底から鉄とシリカに富む熱水が湧出しており、それが海水により酸化され湾全体が赤茶けた水酸化鉄の沈殿で覆われている。また、湾内では幾つかのマウンド形成も確認され、構成する沈殿物中に観察される螺旋状のストーク様構造物から、生物学的な鉄酸化がマウンドの形成に関わっていることが予想された。
マウンドの異なる深度(10 _ 40cm)からサンプルを採取し、次世代シーケンサーにより微生物群集構造の解析を行ったところ、海洋性の鉄酸化細菌であるゼータプロテオバクテリアが検出され、マウンド形成に寄与していることが示唆された。また、微生物群集構造のベータ多様性はマウンド内部に表層、中間層、深層の3つの異なる生息環境が存在することを示し、ストーク状の構造物が高頻度に観察されるのは中間層のみであった。シーケンスライブラリー、およびCARD-FISHによる定量では、ゼータプロテオバクテリアの割合は表層部分で最も高いものの、中間・低層部分では低くなっており、ストークの検出頻度と必ずしも一致しなかった。
微生物種の割合を基に順位相関係数を算出したところ、DeferrisomaやDesulfobulbusなどの鉄還元を行う細菌がゼータプロテオバクテリアと強い正の相関を持っており、これらのバクテリアが酸化還元の境界付近で鉄の酸化還元サイクルを担っていることが示唆された。
一方、高濃度DAPIにより細胞内部のポリリン酸の染色を試みたところ、ストークが高頻度に観察される中間層ではゼータプロテオバクテリアが体内にポリリン酸を蓄積している一方、表層部では蓄積していないことがわかった。この結果により、ゼータプロテオバクテリアが中間層では鉄酸化を行い余剰なエネルギーをポリリン酸として体内に蓄え、鉄酸化に適さない環境下ではそのエネルギーを使って生息していると推察された。
keywords:鉄酸化細菌,酸化還元,元素循環,16S rRNA,CARD-FISH,ポリリン酸