PK-195:毛髪に付着する細菌のプロファイリングを利用した個人の異同識別
1九大院・生資環, 2大分県警・科捜研
【目的】
毛髪試料は,犯罪現場から採取される機会が多い試料の1つである。しかし,毛髪試料からのDNA型検出率は低く,実際の犯罪捜査には十分に有効活用できていない。そこで,鑑定困難な毛髪に付着する細菌叢と容疑者から採取した毛髪の細菌叢のプロファイリングを比較することにより,容疑者の絞り込みが可能かどうかについて検討した。
【方法】
被験者16名から採取した頭毛をサンプルとし,最初の採取から3か月後及び6か月後まで追跡調査を行い,頭毛細菌叢の変動を検討した。また,一部の毛髪は,抜去後に室温,4℃及び-30℃にて6か月間保存して経時変化を検討した。各サンプルからDNAを抽出後,細菌の16S rRNA遺伝子領域を増幅した。増幅後,HaeⅢ及びMspⅠで切断・断片化した後にT-RFLP解析を行った。その後,各サンプルから得られたピークプロファイルに基づいて主成分分析(3D)を行い,各被験者が持つ細菌叢の類似性を比較した。
【結果】
いずれの被験者の場合も,個人間よりも個人内において高い類似性が認められ,各個人が固有の毛髪細菌叢を持つ可能性が示された。また,3ヶ月後及び6か月後の毛髪細菌叢の類似度比較では,ほとんどのサンプル(それぞれ100%及び81%)で大きな変化は見られず,事件後一定時間経過した場合にも識別に利用できる可能性が示された。また,様々な温度に放置した毛髪の経時変化を検討したところ,室温及び4℃に保存した毛髪はDNA収量及び検出T-RFs数が著しく減少し,検査に影響が見られた。以上の結果から,現場遺留毛髪は採取後早期にDNA抽出あるいは冷凍保存の必要性があるものの,毛髪細菌叢を2種の制限酵素によるT-RFLP法で比較することは,遺留毛髪試料からの容疑者絞り込みに有効であると考えられた。
keywords:Forensic Science,Microbiota,16S rRNA Gene,T-RFLP,PCA