PL-205:環境に応じて形を変える微生物集団
1筑波大・院・生命環境, 2筑波大・生命環境系, 3MIT・Dept. Civil Environ. Eng,
バイオフィルム(BF)は環境中に偏在する微生物の集合体である。BFは単純な微生物の塊ではなく、栄養源の代謝などに最適化された秩序だった構造を有している。このBFは細胞外多糖や細胞外DNAなどから構成される細胞外マトリクス(EPS)に覆われている。EPSは物質表面との付着や菌体同士の結合、BF構造の維持、物質の拡散阻害、高いストレス耐性など様々な機能をBFに付与することが知られている。我々の先行研究において、緑膿菌は好気条件下ではマッシュルーム構造のBFを形成するが、嫌気環境下ではメッシュ構造のBFを形成するという生育環境によるBF構造の変化が観察された。そこで、本研究では緑膿菌のBFの構造変化におけるEPSの役割に着目した。
供試菌株としてPseudomonas aeruginosa PAO1株を用いた。嫌気環境下におけるBF形成過程の観察には当研究室開発技術である、嫌気フローセル培養法AFGAS(airtight flow reactor for nondestructive gaseous metabolite analysis and structure visualization) (Yawata et al., Appl Environ Microbiol. 2008)と、染色を必要としない共焦点レーザー顕微鏡法COCRM (Continuous Optimizing Confocal Reflection Microscopy) (Yawata et al., J Biosci Bioeng. 2010)を組み合わせて行った。
成熟段階のBFに存在するEPSの観察を行ったところ、好気環境下のBFと嫌気環境下のBFでは細胞外多糖の分布および存在量に大きな違いが観察された。さらなる解析を行うために、細胞外多糖の生産を制御できる菌株を作製し、BF構造の観察を行った。その結果、細胞外多糖の生産量の変化によって、嫌気環境下において好気環境下と同様のBF構造の形成が確認された。本結果から好気環境下と嫌気環境下で観察されたBF構造の変化はBFを構成するEPSの分布・量の変化に依存することが明らかになった。BF構造およびEPSはBFの性質に大きく関与することから、好気環境下と嫌気環境下におけるBFで拡散性や代謝活性に変化があると予想され、現在解析を進めている。
keywords:バイオフィルム,細胞外多糖,嫌気環境,顕微鏡法