PI-149:緑色糸状性光合成細菌Chloroflexus aggregansのシステインに依存した独立栄養生育
首都大 院・生命
光合成細菌Chloroflexus aggregansは酸素非発生型の光合成細菌で、温泉環境中で多種の細菌と微生物集合体(バイオマット)を形成している。本菌はゲノム内に炭酸固定の遺伝子(3-hydroxypropionate pathway)を持っているが、単独で培養した際の独立栄養生育は確認されていない。当研究室の先行研究でバイオマット中に共存する酢酸を産生する発酵細菌と共培養させたところ、C. aggregansの独立栄養生育を確認した。発酵細菌のみで培養させたところ、共培養系では見られなかった酢酸の蓄積が確認された。この結果から、酢酸が炭酸固定を補助していると考えられたため、酢酸8.3mMと重炭酸(炭酸水素ナトリウム)3.5mMの両者を添加した培地でC. aggregansを培養した。酢酸だけ添加した培地では生育は確認できなかったが、酢酸と重炭酸を共添加した培地では生育が見られた。しかし、酢酸は直接的な炭素源となり得るため、重炭酸を炭素源としてどの程度利用しているかはついては不明瞭である。本研究では、炭素源として利用される可能性が低い物質であるシステインに関して、C. aggregansの独立栄養生育を補助する結果が得られたので報告する。
C. aggregansを光従属栄養条件で培養した後、硫酸アンモニウム(窒素源)、重炭酸(炭素源)30mM、硫化水素(electron donor)0.3mM、システイン1.7mMからなる培地で培養し、660nmの波長を測定して生育を評価した。その結果、システイン添加、55℃、弱光(2_mol/sec・m2)下で5日間培養した条件において、システイン非添加条件に比べ明確な増殖が確認された。さらにそれを同様の培地に継代するとくり返し増殖した。このことから、C. aggregansが独立栄養生育することが示唆された。次に培地の添加物と生育の関係を調べたところ、重炭酸、硫化水素、システインを全て添加した場合にのみ生育が見られ、いずれかが欠けると生育しなかった。この結果から、炭素源は重炭酸に依存しており、システインが独立栄養生育を補助していると考えられた。システインの役割は今後の研究課題であり、現在はC. aggregansの生育とシステインの量的な依存関係を調べている。
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