PE-070:津波で打ち上げられた海底堆積物からの新規硫黄酸化細菌の分離
1東京農工大院・農, 2産総研, 3石巻専修大・理工
背景: 東日本大震災に伴う津波は三陸沿岸地域に大きな被害を及ぼし、場所によっては有機物に富んだ津波堆積物が地表を覆った。筆者らはこれまで、被災後20ヶ月間手付かずであった地域の津波堆積物を用いて、嫌気的から好気的に環境を大きく変動させることで細菌叢に生ずる変化を次世代シークエンサーによって解析した。その結果、好気環境に移行後数日の間に細菌叢は劇的に変化し、実験開始時は細菌群集全体の5%を占めるに過ぎなかったEpsilonproteobacteriaに属する硫黄酸化細菌が培養3日目には57%に、また同じく1%であったGammaprotoebacteriaに属する硫黄酸化細菌は14日目には19%にまでそれぞれ優占度を増し、堆積物の好気的な物質循環過程の始まりに複数の硫黄酸化細菌が関わる硫黄酸化反応が重要な機能を担うことを示した。そこで本研究では、この過程に関わる硫黄酸化細菌の分離を試みた。
方法: 宮城県東松島市の水田地帯に打ち上げられた津波堆積物を2012年11月に採取し、外気に触れた表層を除いた後、内部の黒色を呈した嫌気層を好気的条件下で培養した。その後、無機塩培地にチオ硫酸ナトリウムまたは単体硫黄を添加した培地に植え継ぐことで純粋分離を行った。16S rRNA遺伝子を対象とした遺伝子解析により分離菌株の近縁種を推定すると共に、硫黄化合物の酸化能を調べた。
結果と考察: 現在までに5菌株の硫黄酸化細菌が分離され、そのうち1菌株がEpsilonproteobacteria、2菌株がGammaproteobacteria、1菌株がAlphaproteobacteriaの各classに属した。次世代シークエンサーによる解析では、3日間好気培養した津波堆積物の細菌叢はそれぞれのclassが62%、12%、2%を占め、いずれのグループに属する硫黄酸化細菌も分離することができた。どの菌株もチオ硫酸塩からの硫酸の生成が確認されたが、単体硫黄および硫化ナトリウムの利用性は菌株ごとに違いが見られた。現在、各菌株の至適生育条件や菌学的性状の解析を進めている。分離菌株の生理活性の違いを明らかにすることで津波堆積物内での硫黄酸化細菌群の構成に影響を与える環境要因を把握することが可能となり、ひいては堆積物に含まれる有機性物質の微生物分解プロセスの一端の解明につながることが期待される。
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