PB-044:水稲種子に共存する細菌の多様性と動態に関する分子生態学的研究
1鹿児島大学農水産獣医学域農学系, 2鹿児島大学農学部, 3鹿児島大学大学院連合農学研究科
植物が生長する過程において、植物に共存する細菌の群集構造の変化には、種子に元々共存していた細菌が生長する過程で葉や根に移行する場合と、土壌中の細菌が後から植物に入り込む場合が存在する。中でも種子に共存している細菌は、植物の生育にとって重要な役割を持つと考えられ、種子を介して次世代に継代されている可能性がある。こうした種子に由来する細菌の多様性と動態に関する研究については、幾つか報告例が存在するものの、植物を個体毎に区別して解析した研究は報告されていない。つまり、植物体を複数本分まとめて解析に供試した場合、平均的な群集構造に関する情報は得られるが、個々の植物体における均一性・不均一性の程度は、これまで調べられて来なかった。そこで本研究では水稲を対象試料とするとともに、表面洗浄した種子を無菌条件下で幼苗まで栽培し、種子に共存する細菌の多様性と動態について、分生態学的手法を適用して個体毎に解析することを試みた。
試料および方法:水稲種子(コシヒカリ)の籾を取り除き、種子表面の殺菌洗浄を行った。これを無菌栽培用プラントボックスに1粒ずつ入れ、人工気象器内で2週間程度栽培した(5連)。栽培用の培地にはMS培地を用いるとともに、種子の支持物にはバーミキュライトを用いた。表面を殺菌洗浄した種子、栽培した幼苗の葉と根をそれぞれ個別に採取し、磨り潰してからDNA抽出を行った。細菌の16S rRNA遺伝子は、LNAオリゴによるPCRクランプ法を適用してPCR増幅した。増幅産物を精製・段階希釈し、DGGE 用のプライマーセットでnested PCR増幅してから、その産物をDGGE解析に供した。
結果および考察:各部位(種子、幼苗葉、幼苗根)における細菌のDGGEバンドパターンを見ると、個体毎に特異的なDGGEバンドが数本検出されたものの、バントの過半数は個体間で共通していた。また、種子で検出されなかったバンドが、幼苗の葉や根で新たに検出されており、生長中に種子から葉や根に移行した少数の細菌が、その部位において主要になったと推測された。部位の違いを比較すると、幼苗の葉もしくは根に特異的なバンドが認められ、部位の違いに伴う群集構造の差異が示唆された。今後は、特異的なDGGEバンドの塩基配列を決定し、近縁細菌を決定する予定である。
keywords:水稲種子,共存細菌,多様性と動態,LNA-PCRクランプ技術,DGGE