OI-16:コロニー形成における脂肪酸合成の重要性 – The importance of fatty acid synthesis in colony formation
東京大学農学生命科学研究科応用生命工学専攻
コッホ以来、微生物学者達は寒天培地上でコロニーをつくらせることで環境中から細菌を単離してきた。しかし、環境中の細菌は生きていてもコロニーをつくらないものが大多数で、未だ99%以上の細菌が単離できていない。固体培地上で生育が可能な条件を探索する研究も盛んに行われているが、未だ一般的かつ効果的な方法は確立されていない。
コッホ以来の単離法は、固体培養という恒常的なストレス状態に曝されても生育できる特殊な細菌のみが対象であった。実際、液体培養可能な細菌は固体培養の10倍近くになっており、環境中の細菌の単離法の確立には、まずは液体培養可能だが固体培養できない細菌と、固体培養可能な細菌との決定的な違いを究明する必要がある。
当研究は、この違いに遺伝学的に迫る。即ち、固体培養でのコロニー形成のみに必須で、液体培養での生育には必須ではない遺伝子機能の存在を仮定し、その探索を行った。コロニー形成のみに必須な遺伝子に変異が入ると、液体培養しかできなくなるはずである。そこで遺伝子操作技術が確立された大腸菌を用いて、液体培養しかできない変異株を探索した。結果、脂肪酸合成に関わるfabB遺伝子の欠失株が、液体培養に比べ、固体培養での生育能が大きく低下することがわかった。fabB欠失株は、脂肪酸としてオレイン酸を十分量供給すると固体・液体培養の双方で生育するが、オレイン酸を制限すると、液体培養のみで生育し、固体培養では全く増殖しなかった。大腸菌において、脂肪酸合成がコロニー形成に特に重要であることがわかった。
さらに変異株だけでなく、大腸菌野生株のコロニー形成能に対する脂肪酸の効果も調べた。飢餓状態にある環境中の細菌と同様に、大腸菌野生株も低温飢餓条件に曝すと、生理活性を保ちながらもコロニー形成能が低下した状態に陥る。この状態でオレイン酸を供給すると、最大で10倍以上、コロニー形成数を増大させることができた。即ち、低温飢餓に曝した大腸菌のコロニー形成能が低い要因の一つは、脂肪酸の不足であることが示された。
大腸菌を用いた当研究により、環境中の細菌のコロニー形成能が低い要因の一つが脂肪酸の不足であることが示唆された。現在、脂肪酸の合成不全による固体培養と液体培養での生育差が、大腸菌以外の細菌でも見られるか、また脂肪酸の添加により、環境中の細菌のコロニー形成能も増強可能かを検証している。
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