OB-22:土壌DNAにおける窒素安定同位体比測定法の開発と森林土壌への応用
東京農工大学 農学部 生物圏物質循環学研究室
土壌の窒素循環において土壌微生物が担う役割は大きい。そのため,土壌微生物が利用可能な窒素量(窒素可給性)に目を向けた研究がなされているが,定量的にそれを評価する手法は確立されてこなかった。土壌微生物バイオマスの窒素安定同位体比(δ15N-SMB)と土壌の窒素安定同位体比(δ15N-Soil)の差し引き (Δ15N)が土壌微生物にとっての窒素可給性を評価しうることが報告されたが,δ15N-SMB自体の測定方法に難があり,土壌DNAの窒素安定同位体比 (δ15N-DNA)がその代替の候補として挙げられた。後にδ15N-DNAはδ15N-Soilとほぼ同じ値を取ることが報告されたが,DNA精製が不十分であり,測定精度に課題が残されている。本研究では高い精度でδ15N-DNAを測定する方法を確立し土壌微生物にとっての窒素可給性を評価する指標として適切かどうかの再検討を行った。
Pseudomonas aureofaciens,全国各地の土壌試料,C/N比の条件を変えて培養したAspergillus oryzeを試料とした。試料からDNAの抽出・精製を行った後,δ15N-DNAを測定した。
ゲル濾過カラムと脱窒菌法により少量の土壌から精度の高いδ15N-DNAの測定に成功したが,その値はδ15N-Soilとほぼ1: 1の関係にあった。δ15N-DNAはδ15N-SMBと同様に培地のC/N比に対応して変化した。δ15N-SMBとδ15N-DNAの差し引き(Δ15NSMB− DNA)はすべての試料で正の値を取った。また菌体においてその値はすべての条件で約9‰となったが,土壌試料においては一定ではなかった。これらの結果は微生物においてDNA合成には窒素の同位体分別が伴うことを示している。また,δ15N-DNAは,この同位体分別を反映した値であると考えられる。さらに,この同位体分別の大きさは,微生物を取り巻くある環境に依存することが示唆された。ゆえに本研究より,δ15N-DNAを土壌微生物にとっての窒素可給性を評価する指標として用いるのは難しいといえる。同時にΔ15NSMB− DNAが土壌微生物の動態を評価する新たな指標となりうることが示された。
keywords:窒素循環,森林土壌,土壌DNA,窒素安定同位体比