PL-212:運動性非依存的な付着をするグラム陰性細菌Paracoccus denitrificansのバイオフィルム形成因子の解析
1筑波大・院生命環境
バイオフィルム(BF)は固体表面に付着した微生物の集合体であり、環境中の細菌の主要な存在形態であると考えられている。グラム陰性細菌によるBF形成機構は運動性を有するモデル細菌を用いてこれまでに詳細な解析が行われており、固体表面への菌体の可逆的付着、不可逆的付着、マイクロコロニー形成、BFの成熟化、菌体の脱離、という形成サイクルが知られる。細菌の運動性は、このBF形成過程における菌体の初期付着やBF立体的構造、菌体がBFから脱離する際に重要である。一方、非運動性細菌も環境中に存在し、BFを形成して生息すると考えられる。例えば、非運動性細菌Aggregatibacter actinomycetemcomitansは自ら移動することはできないが、環境中の水の流れにより固体表面に付着し、その場でBFを形成できることが報告されている。しかし、その他の非運動性細菌によるBF形成については知見が限られる。本研究では非運動性グラム陰性細菌Paracoccus denitrificans を用いて非運動性細菌によるBFの形成因子を解析することを目的とした。P. denitrificansによるBF形成を解析した結果、P. denitrificansは流れの無い静置条件下であるにも関わらず、気液界面で固体表面に付着してBFを形成した。P. denitrificansは非運動性細菌に分類されるが鞭毛の遺伝子を部分的に有するため、motility assayを行ったが、運動性は観察されなかった。BF形成因子を解析するため、トランスポゾン(Tn)ミュータントを作成し、BF形成能をスクリーニングした。その結果、4416株のTnミュータント中、野生株と比べBF形成量が増加・減少する株が29株得られた。これらのTnミュータントの菌体表面の疎水性は、野生株よりBF形成量が増加した株で増加し、BF形成量が減少した株で低下した。BF中の細胞外マトリックス成分を解析するため、DNase IおよびProteinase Kを添加してBFを形成させた結果、Proteinase K添加時にBF量が減少した。以上より、非運動性細菌P. denitirificansは菌体表面に疎水性のタンパク質を付着因子として産生することにより、流れの無い環境下においても固体表面へ付着し、BFを形成できると考えられる。
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