PL-207:ロドコッカス属細菌の凝集体ライフサイクルにはNonribosomal peptide synthetaseが関与する
1筑波大院・生命環境, 2産総研・環境管理, 3筑波大・生命環境系
微生物の中には、自己凝集による集団構造体である凝集体を形成するものがいる。凝集体を形成した微生物は、微生物の産業利用における固液分離の容易化や酵素の固定化担体としての働きが期待される。したがって、微生物の凝集形態をコントロールすることは産業面において便益をもたらすため、凝集体の形成メカニズムやその制御に関する知見を得ることは重要である。
Rhodococcus sp. SD-74は当研究室で炭化水素資化細菌として土壌から単離された、多機能な糖脂質を生産する細菌である。SD-74株は液体培地中で強い凝集性を示すため、この細菌をモデルとして凝集体制御についての解析を行った。SD-74株の凝集体形成過程を観察すると、まず微小な凝集体を形成した後に、それらが集合・発達して大きな凝集体を形成することが明らかとなった。興味深いことに、凝集体の発達後も培養を続けると、凝集体の崩壊が観察された。この一連の観察から、SD-74株は細胞密度に依存して凝集しているのではなく、秩序だった凝集体ライフサイクルを有していることが明らかとなった。
そこで、凝集体形成に関与する遺伝子を探索するために、トランスポゾンを用いてランダムな遺伝子破壊を行った。得られた破壊株ライブラリーより野生株と凝集形態が異なる株をスクリーニングし、長時間培養しても凝集体が崩壊しない強凝集株を取得した。強凝集株のシークエンス解析の結果、Nonribosomal peptide synthetase (NRPS) をコードする遺伝子がトランスポゾンにより破壊されていることが分かった。NRPS遺伝子のマーカーレス破壊株も強凝集性を示したため、このNRPS遺伝子が凝集体の崩壊に必須であると考えられた。また、野生株の凝集体崩壊時の培養上清は凝集体形成阻害活性を示したが、NRPS破壊株の培養上清は凝集体形成に影響を与えなかった。したがって、このNRPSが合成するNonribosomal peptide (NRP) が生育に伴って培養上清中に放出され、それにより凝集体の崩壊が誘導されていると考えられた。以上の結果より、本NRPS及びNRPはSD-74株の凝集体ライフサイクルに必須の因子であることが示唆された。
keywords:Rhodococcus,Nonribosomal peptide,微生物凝集