PK-196:クリーン実験環境下におけるDNA汚染の影響評価
1マリンワークジャパン, 2JAMSTEC高知コア研, 3興研株式会社
【目的】近年、分子生物学的技術の発展により、単一微生物細胞に由来する数フェムト(10-15)グラムのゲノムDNAからも遺伝子の増幅が可能となり、これまで解析自体が困難であった環境中の未培養系統群のゲノム解析も現実のものとなっている。一方で、環境からのDNA汚染は、検出技術が高度化するにつれ顕著な問題となっている。一般的に環境のクリーン度は0.1-0.3 μm程度の粒子の存在数によって定義されるが、それよりもサイズの小さい浮遊DNAについては、汚染評価すら行われてこなかった。本研究では、人工的にDNAエアロゾルを発生させ、汚染DNAの濃度を定量することで、クリーン実験空間内外でのDNA汚染レベルの評価を実施した。
【方法】クリーン空間を保持する装置として、オープンクリーンシステムである興研株式会社製「テーブルコーチ」を用いた。モデルDNAとしてはλファージ由来のDNA断片を用い、濃度を段階的に変えたDNA溶液を含む容器中でバブリングを行うことでエアロゾルを発生させた。エアロゾル中のDNA分子量は時間当たりのDNA溶液量の減少から計算した。テーブルコーチの前後に384ウェルプレートを設置し、30分間暴露することによって汚染DNAをトラップさせた後、特異的プライマーによって汚染DNAを定量した。
【結果と考察】エアロゾル発生中の空気をサンプリングし、粒子分析装置により分析を行ったところ、DNA存在の有無によって空気中の粒子サイズ、存在量の分布に変化は認められなかった。DNA検出実験においては、テーブルコーチ装置前で、検出用プレート面積あたり約500 DNA分子が30分間の暴露で通過する条件からモデル汚染DNAが検出され始め、5×106分子が通過する条件では384ウェルすべてで汚染DNAが検出された。一方、5×106分子が通過する条件におけるテーブルコーチ装置後流(クリーン空間)では、プレート上で2ウェルにおいて汚染DNAが検出されるのみで、それより低濃度のDNAエアロゾル条件では汚染DNAが検出されなかった。従って、テーブルコーチにより粒子分析装置で検出が出来ないレベルのエアロゾル状DNA分子が補足されることが明らかとなり、実験室環境からのコンタミを極限的に排除した極微量DNA検出等への有効性が示された。
keywords:汚染DNA,エアロゾル,クリーン空間