PI-152:紅色光合成細菌の増殖の定常期における熱ストレス耐性の低下
1首都大・生命, 2首都大院・生命
細菌培養時の定常期の細胞は、増殖期に比べて様々なストレスに対する耐性が上昇すると一般的に言われている。このようなストレス耐性上昇は増殖に不利な環境で細胞集団全体を生き残らせる戦略と考えられている。紅色光合成細菌Rhodopseudomonas palustrisは紅色光合成細菌の中でも土壌や水田などに広く分布する細菌である。当研究室は、本細菌は栄養源飢餓条件下での生残力が他の光合成細菌に比べて高いことを報告している。しかし定常期におけるストレス耐性についてはよくわかっていない。そこで本研究ではR. palustrisの増殖期および定常期での熱ストレス感受性を解析した。
R. palustris CGA009を光従属栄養条件下で指数増殖期または定常期まで培養した。熱ストレスとして50℃に15分間暗所でさらした。熱処理前後のコロニー形成能(CFU)を評価し、熱処理前のCFUに対する熱処理後のCFUを生残率とした。
培養液を熱処理した生残率は、増殖期で62%、定常期では0.2%であった。この結果は定常期細胞が増殖期細胞よりストレス耐性が高いという定説に反する。定常期の細胞の熱ストレス耐性が低かった要因が細胞自体と培養上清のどちらかと考え、増殖期・定常期の培養液から、細胞と上清を分け取って使用した。集菌した増殖期・定常期の細胞を定常期・増殖期の上清にそれぞれ懸濁して熱処理を行った。その結果、定常期の上清に増殖期の細胞を再懸濁すると生残率が増殖期上清懸濁時の約1/50となった。また定常期細胞を新鮮な培地に再懸濁・熱処理したときの生残率は、増殖期上清で懸濁した時とほぼ同等であった。
R. palustrisの熱ストレス耐性は増殖期に比べて定常期で顕著に低いことがわかり、定常期の培養液には熱ストレス下で生残率低下を誘導する物質が存在することが示唆された。大腸菌では増殖期に細胞死誘導因子を細胞外に分泌しストレス耐性を低下させることが知られており、積極的に一部の細胞を死滅させることで細胞集団を維持する戦略ではないかと考えられている。R. palustrisでは、増殖の定常期において類似の現象が観察され、先行研究で示された高い飢餓生残力のような、細胞集団全体を生残させる戦略の他に、環境条件によっては集団の一部を死滅させていると考えられた。
keywords:細胞死,定常期,熱ストレス,光合成細菌