OH-03:プロテオロドプシンを持つ海洋細菌の有光層への適応に寄与する2つの遺伝子、SbtAとDUF2237
1東京大学 大気海洋研究所, 2東京大学 大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻, 3東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系, 4九州大学 医学研究院 基礎医学部門, 5東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻
プロテオロドプシン(PR)はタンパク質のオプシンと発色団のレチナールから成る複合体で、光エネルギーから細胞膜を介したプロトン駆動力を生成する。プロトン駆動力はATP合成にも使われるため、PRを持つ細菌は光を用いたエネルギー生産が可能である。海洋有光層においては13-80%の細菌がPRを持つと見積もられており、PRは細菌の海洋有光層への適応に重大な寄与をしていると考えられている。
これまでに、海洋細菌の様々な生理的反応がPRと関わることが知られている。例として、PRを持つフラボバクテリアは光条件において炭酸水素イオン取り込みや補充反応に関わる遺伝子の発現を増加させ、TCA回路を用いた炭素固定量を増加させることが明らかとなっている。PRと生理的に関わる遺伝子群の存在は、PRを持つ細菌とPRを持たない細菌においては、他の遺伝子群についても差異があることを示唆している。
ここで我々は、フラボバクテリア綱細菌においてPRを持つ株が多系統となることに着目した。系統を超えてPRを持つ株にのみ偏って分布する遺伝子を検出すれば、それらの遺伝子はPRと進化的な関わりを持ち、PRとともに細菌の海洋有光層への適応に寄与すると考えられる。本研究はそのようなPRと進化的に関わる遺伝子の検出を目的とする。
PRを持つ12株を含む32株の海洋性フラボバクテリアのゲノム比較の結果、PRを持つ株に偏って分布する2つの遺伝子を検出した。その一方は既にPRとの生理的関連が示唆されているナトリウム依存型の炭酸水素イオンシンポーター(SbtA)であり、もう一方は機能未知遺伝子(DUF2237)だった。これらの遺伝子はPR遺伝子とゲノム上で離れて位置しており、PRとは独立に獲得/欠失してきたことが示唆された。また、DUF2237はシアノバクテリアや好気性光合成細菌等にも分布しており、光利用と関係する機能を持つことが示唆された。シアノバクテリアを用いたDUF2237のノックアウト解析の結果、DUF2237欠損株はその走光性を低下させたことから、DUF2237は光と関わる機能を持つことが実験的にも支持された。これらの結果は、PRを持つ細菌の海洋有光層への適応にはPR以外の複数の遺伝子が寄与しており、その中にはこれまで機能未知だった新規の光利用関連遺伝子DUF2237が含まれることを示している。
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