OH-01:新奇ケルコゾア生物Brevimastigomonas sp. KY003株の持つ新たなミトコンドリア様オルガネラ
1京都大・院人間環境, 2京都大・院地球環境
【背景・目的】真核生物は一般に酸素を用いた好気的なATP生産をミトコンドリア(Mt)内におけるTCA回路および電子伝達系を介して行う。その一方で嫌気環境に適応した一部の真核生物には、酸素を用いないエネルギー生産系を進化させ、嫌気環境に特化したMt様オルガネラであるハイドロジェノソーム(Hg)と呼ばれる水素発生型オルガネラを獲得した種も存在する。HgはMtと異なりTCA回路や電子伝達系を有さず基質レベルのリン酸化によってATPを生産する。近年、この両者の性質を併せ持つ水素発生型ミトコンドリア(HPM)が報告され、ミトコンドリア機能の改変をともなう進化はこれまで想像していた以上に多様である可能性が示されている。本研究では、人工池の底泥から分離した新奇ケルコゾア生物Brevimastigomonas sp. KY003株のMt様オルガネラが、これまでに知られていない新たなタイプのオルガネラであることを報告する。
【方法】本株の培養は25℃前後の好気および低酸素環境下においてC+3% LB培地を用いて行われた。形態観察は光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、および電子顕微鏡を用いて行った。当株のゲノム配列および転写物配列を次世代シーケンサーにより決定し、それぞれVelvetおよびTrinityによりアッセンブルを行った。遺伝子のアノテーションはBlastによる相同性検索により行った。好気環境下および低酸素環境下の転写物発現量は逆転写定量PCRを用いて比較した。
【結果・考察】培養および形態観察により、本種は好気および低酸素下での増殖が可能であるにもかかわらずMt様オルガネラの形態はクリステを欠くHgのそれであった。このことは絶対嫌気性種に進化する前からMt様オルガネラの形態退化は起こり得ることを示している。また本株のMt様オルガネラは好気環境ではTCA回路および電子伝達系によるATP生産、低酸素環境では水素発生を伴う基質レベルのリン酸化によるATP生産を行うポテンシャルを有していることが明らかとなった。本種ではATP代謝系の切り替えが酸素濃度依存的に行われていることを示唆する。本発表では最終的に、Mt進化の多様性を形態および代謝系の両面から議論する。
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