PA-016:454シーケンサーを用いた三陸沖における微小真核植物プランクトンの季節変動解析
1国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター, 2国立研究開発法人 水産総合研究センター 東北区水産研究所, 3国立研究開発法人 水産総合研究センター 北海道区水産研究所
微小真核植物プランクトンは海洋に広く分布し、高い生物量と一次生産速度から、海洋生態系の重要な構成要素と考えられている。ここでは微小真核植物プランクトンとは、真核ピコと真核ナノ植物プランクトンを指すが、培養および顕微鏡での同定が困難な種が多く、群集組成の把握が困難であった。近年では18S rDNAを遺伝子マーカーとした群集構造解析により、極めて多様な群集であることが明らかとなってきた。我々はこれまでに、フローサイトメトリを用いて粒径とクロロフィル蛍光を指標に微小真核植物プランクトンを選抜することで、対象を絞ったメタゲノム解析行う手法を開発してきた。本研究ではこの方法を用いて、三陸沖の微小真核植物プランクトン群集の海域間比較と季節変動パターンの解明を目的とした。分析には、外洋域として、亜寒帯由来の海流が流れ込む親潮域と亜熱帯由来の黒潮と親潮が混ざりあう黒潮_親潮移行域、沿岸域として仙台湾の湾口および湾奥の4地点に於いて、2012年春から翌春にかけての5季節の表層で採水した海水試料を用いた。合計20試料から572,390(平均28,620/試料)の塩基配列が得られ、98%以上の相同性を基準とした操作上分類単位(OTU)は362種類得られた。その内、195 OTUs(54%)が光合成性と思われる系統群であった。多変量解析により光合成性生物に近縁なOTU(pOTU)の組成を比較したところ、クラスター解析(SIMPROF)および非計量多次元尺度法(nMDS)ともに、pOTU組成は4つのグループに分けられた(SIMPROF: p値は0.05以下)。沿岸域の2地点間では、pOTU組成は一年を通して類似し、季節毎に異なるSIMPROF-グループ間を変化したが、外洋域の2地点のpOTU組成の変化は異なった。一方、冬期の群集組成は4地点間で類似し、Bacillariophyceae(Minidiscus trioculatusと Arcocellulus mammifer)とCryptomonasに近縁なpOTUが優占した。本研究により、三陸沖の微小真核植物プランクトン群集組成は時空間的に変動が大きく、沿岸域、親潮域、移行域では、冬期に限り、限定した系統群が優占する類似した群集が形成されるが、それ以外の季節ではそれぞれの海域で特徴的な群集構造を示すことが明らかとなった。
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