PA-017 (JTK):自然淡水環境からの亜硝酸還元能を持つ紅色光合成細菌の分離と多様性
首都大・院・理工
【背景・目的】紅色光合成細菌は水圏や土壌環境に広く分布し嫌気条件で光従属栄養的に生育する。これまで排水処理施設や家畜汚水路などの人工的な富栄養化環境から脱窒能を持つ紅色光合成細菌が分離されてきた。脱窒能を持つ紅色光合成細菌は自然環境からの分離例が少なく、その性質や分布が明らかになってない。当研究室では既に貧栄養の淡水湖沼から脱窒能を持つ紅色光合成細菌が3株分離され、これらの株はいずれも脱窒基質として硝酸を使うことができず、亜硝酸のみを利用することが分かっている。本研究では比較的貧栄養の淡水環境から亜硝酸のみを利用する紅色光合成細菌を分離しその系統や特徴について調べた。
【方法】東京都郊外にある湖沼・水田・河川・池の4環境より底泥または堆積物を採取し、多様な光合成細菌を得るため試料1gを有機酸、アミノ酸、糖類の炭素源のうち一つを用いた8種類の培地に接種し嫌気光従属栄養条件下、30℃で集積培養した。紅色を呈した集積培養系を同条件で4回継代培養したのち暗所嫌気従属栄養条件、亜硝酸2mMを添加した培地で培養し亜硝酸を脱窒基質として生育する紅色光合成細菌を含む培養系を得た。この培養系から光合成細菌を嫌気光従属栄養条件、寒天培地を用いて単離した。
【結果・考察】4環境すべてから亜硝酸還元能を持つ紅色光合成細菌が検出されRhodobacter、Rhodopseudomonas、Rubrivivaxの3属・4種に分けることが出来た。いずれの株も16S rRNA配列において既存種との相同性が100%であった。本研究で分離された全ての株において硝酸還元能は確認されなかった。今回の採取地すべてから亜硝酸から脱窒する紅色光合成細菌が得られたことは、淡水環境に広く一般的にそのような細菌が分布していることを示唆する。なお亜硝酸還元能を持つRhodobacter属の河川環境からの分離はこれまでに報告がない。今まで得られていた富栄養環境に加え、今回貧栄養環境から亜硝酸還元能を持つ紅色光合成細菌が多く単離されたことから光合成細菌の関与する脱窒は比較的貧栄養及び富栄養の人工環境で広範に進行していることが考えられた。当研究室では硝酸を亜硝酸に還元する従属栄養細菌が湖沼環境から紅色光合成細菌と同時に分離されているため、比較的貧栄養な環境で複数種の細菌の複合系として硝酸からの脱窒が行われていると考えられた。
keywords:多様性,紅色光合成細菌,脱窒,亜硝酸,淡水環境