2023年M&E論文賞決定
選考委員会 池永誠、井町寛之、木村浩之、永田裕二、野田悟子、春田伸(委員長)、吉田天士
2023年M&E論文賞受賞論文
Light-driven Proton Pumps as a Potential Regulator for Carbon Fixation in Marine Diatoms (2023) 38: ME23015
Susumu Yoshizawa, Tomonori Azuma, Keiichi Kojima, Keisuke Inomura, Masumi Hasegawa, Yosuke Nishimura, Masuzu Kikuchi, Gabrielle Armin, Yuya Tsukamoto, Hideaki Miyashita, Kentaro Ifuku, Takashi Yamano, Adrian Marchetti, Hideya Fukuzawa, Yuki Sudo, Ryoma Kamikawa
【授与理由】
微生物型ロドプシンは多様な系統の原核生物から発見され、光によるプロトン濃度勾配形成装置としても広く認識されるようになり、光合成は、ロドプシン型光合成とクロロフィル型光合成に大別して説明されるようになってきている。本論文は、真核微生物である珪藻から見つかった微生物型ロドプシンの生理機能を明らかにしている。
珪藻由来のロドプシンを大腸菌に異種発現させ、分光学的特徴づけを行うとともに、光照射に伴うpH低下から珪藻ロドプシンに光駆動型のプロトン輸送活性があることを見出している。さらにGFP融合ロドプシンを珪藻で発現させ、珪藻細胞内で特にクロロフィルを含む葉緑体の最外膜に局在することを明らかにしている。また、珪藻細胞内のCO2濃度を推定するモデルを考案し、そのシミュレーションからロドプシンによるpH低下がCO2の局所濃度を上昇させ、炭酸固定の効率を向上させる機構を提案している。
これまでに珪藻からロドプシン遺伝子は多数報告されていたが、その生理機能は全く不明であった。本論文は、遺伝子情報解析、分子生物学解析、数理解析を駆使して珪藻の微生物型ロドプシン機能を明らかにした初めての報告である。海洋生態系を支える代表的な植物プランクトンである珪藻がクロロフィル型光合成だけでなく、ロドプシンも使って、炭酸固定していることを示した本論文の成果は、生態系の光エネルギー利用および地球規模の炭素循環を再考するうえでも重要な意義を持つと評価された。
2023年M&E佳作論文
Identification of a Novel Gene Involved in Cell-to-cell Communication-induced Cell Death and eDNA Production in Streptococcus mutans (2023) 38: ME22085
Ryo Nagasawa, Nobuhiko Nomura, Nozomu Obana
【選出理由】
歯垢が典型的なバイオフィルムであることはよく知られている。いわゆる虫歯菌として有名なグラム陽性の連鎖球菌Streptococcus mutansのバイオフィルム形成において、近年、菌体外DNAの重要性が注目されている。本論文以前に、competence-stimulating peptide (CSP) が当該細菌集団の一部にlytF遺伝子を介した自己溶菌による細胞死と、それに伴う細胞外DNAの産出を誘導することが明らかになっていたが、lytF破壊株でも細胞死が見られることから、他の因子の関与も示唆されていた。本論文では、sortingした生細胞と死細胞のRNA-seq解析により死細胞で蓄積された遺伝子をリスト化し、そのひとつであるSMU 1553c遺伝子が、CSP依存的な細胞死および細胞外DNAの産出に関与する新しい因子であることを遺伝学的手法で明示した。SMU 1553c遺伝子の機能は未解明であるが、基礎生物学的に重要な現象の機構解明に繋がる新規遺伝子の発見であり、かつ虫歯予防に繋がる可能性を秘めた応用的にも重要な成果であることから、審査員に高く評価された。
2023年M&E審査員特別推薦論文
Microbiota in Umbilical Dirt and Its Relationship with Odor (2023) 38: ME23007
Takehisa Yano, Takao Okajima, Shigeki Tsuchiya, Hisashi Tsujimura
【選出理由】
本論文は臍(へそ)の汚れの微生物群集とその臭いの関係を調べた論文である。この研究ではサンプリングが難しい臍の奥の汚れまできっちりと採取するために、著者らが開発したポリマーを使った新しい採取技術を用いている。そしてその汚れの微生物群集を16S rRNA遺伝子解析を用いて調べている。この研究によって臍には他の皮膚部位とは異なりCorynebacteriumが優占していること、Corynebacterium自体は臭いと直接の関連は見られなかったが、Mobiluncus、ArcanobacteriumやPeptoniphilusなどの嫌気性バクテリアが臭いの強いグループで多く見られたことを報告している。
人の健康に関わる非常に重要な研究であること、使われている方法や得られた結果も明瞭であること、そしてイグ・ノーベル賞のような刺激的な想像力を感じる研究であることが審査員から高く評価された。










