目的と目標
どのような微生物が地球上のどこに生存しているかという多様性の情報は、微生物生態系の役割を理解するための基礎となります。これまでブラックボックスの中に押し込められてきた微生物多様性の情報は、環境メタゲノミクスの技術により明らかにされはじめています。この情報には、系統の多様性に加えて機能の多様性が含まれています。この多様性の情報は、生態系の基盤がどのように支えられているのかを知る大きな手がかりにもなります。微生物多様性部会では、研究者間の情報交換や分野を越えた研究協力の支援のためにコンソーシアム活動を通じて日本の生態系の微生物ハビタットマップを実現するべく活動をしています。
活動内容
微生物ハビタットマップ
ハビタットマップは、生息分布を視覚的に理解するだけでなく、環境情報を重ね合わせて生態系の状況を理解するためのツールとして使われています。研究者各個人のデータは論文を発表すると完結し、多くの場合、論文に用いられた一次データや論文には直接用いられなかったデータは個人のハードディスクに保存されたままになってしまう。このように死蔵される個々の生息分布に関する個別データを集めて再解析をすれば、広域のハビタットマップの作成が可能なはずです。実際、動植物ではこのようなハビタットマップによる解析から生息分布の状況や変遷、また環境変動の影響評価が進められています。
微生物のハビタットマップの場合では、単なる分布図ではなく、生態系の基本機能を映し出せることが指摘されています。従来の動植物データだけを基準にした解析だけでは最終結果だけを見ていましたが、迅速な応答をする微生物群集のデータを統合して環境影響評価をすれば、わずか変動をとらえて評価をすることができるはずです。
部会では、環境メタゲノム手法を利用した微生物生態系の研究を促進するために調査や試料分析の情報共有、微生物群集の広域ハビタットマップ作成につながる生息分布や環境メタゲノムのデータ所在、プロジェクト提案につながる情報の共有を図ることをしています。
学会員の皆さんからも、ぜひ微生物ハビタットマップの作成につながるアイデアや情報をお寄せいただきたいと思います。こうした情報がもとになり新たな研究プロジェクトへとつながるように支援しています。
環境メタゲノミクスとバイオインフォマティクス
環境メタゲノミクスは、微生物生態系を可視化するために必要な基礎データを提供する強力な道具のひとつです。シーケンシングにかかる経費が下がり、誰でも遺伝子配列情報を読み出すことができるようになり始めています。そのデータからは、系統群だけでなく、生理代謝などの機能群をも抽出して同定することができますが、その解析には、データベースだけでなく遺伝子から代謝機能が割り振られた代謝マップやバイオインフォマティクスを使いこなすことが必要になります。代謝機能解析には、KEGG (Kyoto Encyclopedia of Gens and Genomes: http://www.genome.jp/kegg/ )やMetaCyc (http://metacyc.org/) などの代謝機能とそれを担う遺伝子を対応付けたデータベースが主に使われていますが、こうしたデータベースにはまだ不完全な点も多々あるため、これらを微生物生態系の研究に活用して行くためには単に利用者としてだけでなく、研究者個人が持つ代謝機能についてのデータや知識をデータベース側に還元し、より精度の高い幅広い機能を網羅したデータベースへと育てることも必要です。
そこで部会では、バイオインフォマティクス分野との協力、またKEGGなどの研究者との情報交換などのパイプ役をつとめます。協力に向けた提案や意見がありましたらお知らせください。
設立の経緯
2009年に部会として活動を開始しました。当時は、2010年に生物多様性条約締約国会議(CBD COP10)が名古屋で開催されることから、多くの分野で多様性の意義が議論されていました。残念ながら、微生物の多様性に関しては、重要であると認識されながら、限られた議論の枠に押し込まれた様子でした。この状況を変えようと、日本生態学会と日本微生物生態学会において研究集会やシンポジウムを開き、部会として、微生物から見た生物多様性の調査研究の状況と意義を論議してきました。
連絡先
部会代表:山本啓之 <kyama @ jamstec. go. jp>