2024年M&E論文賞決定
選考委員会 大友量、加藤広海、鮫島玲子、重松亨、新谷政己、永田裕二(委員長)、宮内啓介
2024年M&E論文賞受賞論文
Quest for Nitrous Oxide-reducing Bacteria Present in an Anammox Biofilm Fed with Nitrous Oxide (2024) 39: ME23106
Kohei Oba, Toshikazu Suenaga, Shohei Yasuda, Megumi Kuroiwa, Tomoyuki Hori, Susanne Lackner, and Akihiko Terada
【授与理由】
本論文は、微生物による窒素除去プロセスのうち、未解明な点が多く残るアナモックス過程に着目した研究である。アナモックスリアクターを用いて、リアクター内のN₂O還元菌の同定、遺伝的特性、および活性を明らかにすることを目的としている。N₂Oが制限要因となっているという仮説のもと、ガス透過性膜を用いたバイオフィルムリアクターによりN₂Oをバブルレスで供給し、各種データを収集した。15Nトレーサー試験、定量PCR、16S rRNAアンプリコン解析、ショットガンメタゲノム解析といった複数の手法を組み合わせることで、Clade II nosZ型N₂O還元菌であるAnaerolineaeおよびIgnavibacteriaがN₂O吸収に主要な役割を果たしていることを明らかにした。また、ビタミンB₁₂代謝能力の高いDehalococcoidiaおよびClostridiaがN₂O削減に寄与していることも示された。本研究は、1,200日間に及ぶアナモックスリアクターの運転データに基づき、多様な解析手法を駆使してN₂O削減に関わる中心的な菌株とそれを支える微生物群の存在を解明した点において高く評価される。また、電子受容体に着目した共生系の解明という独創的な視点も、本研究の大きな特長である。これらの点が委員会において高く評価され、今回の受賞論文として選出された。
2024年M&E佳作論文
Accelerated Iron Corrosion by Microbial Consortia Enriched from Slime-like Precipitates from a Corroded Metal Apparatus Deployed in a Deep-sea Hydrothermal System (2024) 39: ME23089
Satoshi Wakai, Sanae Sakai1, Tatsuo Nozaki, Masayuki Watanabe, and Ken Takai
【選出理由】
人工的に作った熱水噴出孔にリアクターを設置して中〜中高温の海水中で金属腐食に関与している微生物群を捕まえてくる、なんとロマンに溢れた研究! リアクター内部のぬめりを人工海水に接種して金属鉄を含む条件で培養し、腐食速度を非接種区と比較した。その際の水素やメタンの発生から鉄酸化に伴う電子受容体を推定し、また腐食速度と培養後のバクテリアの相対存在量の関係から実際に生物的腐食に関与していると考えられる微生物群を推定している。これらの微生物が実際にどの程度腐食の進行に関与しているかの定量的な評価はこれからであるものの、37度・50度それぞれで、これまでに報告のある低温での生物腐食に関与するものとは別のバクテリア種の関与が示唆され、興味深い。海底ケーブルや海底資源開発のための機器などをどのように保全するかという実用的な観点からも意義深いと考えられ、高く評価された。
この他、選考の過程において、以下の3報の論文についても高く評価されましたことを報告します。
Stable States of a Microbial Community Are Formed by Dynamic Metabolic Networks with Members Functioning to Achieve Both Robustness and Plasticity (2024) 39: ME23091
Masahiro Honjo, Kenshi Suzuki, Junya Katai, Yosuke Tashiro, Tomo Aoyagi, Tomoyuki Hori, Takashi Okada, Yasuhisa Saito, and Hiroyuki Futamata
【内容】
本論文は、フェノールを唯一の炭素源とする細菌群集の安定化メカニズムを解明した研究である。16S rRNA アンプリコン解析により新たに定義した「成長活性」「群集形成活性」「群集変化活性」「脆弱力」「レジリエンス力」を導入し、群集を動的ネットワークとして可視化した。これら独自指標は、優占菌組成や分解活性だけでは捉えきれないマイノリティの役割やコミュニティの安定性・可塑性を定量化する“物差し”を提供した点で、方法論的独創性を兼ね備えている。
Successful Isolation of Diverse Verrucomicrobiota Strains through the Duckweed-Microbes Co-cultivation Method (2024) 39: ME24019
Yasuhiro Tanaka, Erina Tozawa, Tomoki Iwashita, Yosuke Morishita, Hideyuki Tamaki, Tadashi Toyama, Masaaki Morikawa, Yoichi Kamagata, and Kazuhiro Mori
【内容】
本論文は、ウキクサ(ダックウィード)を利用して「microbial dark matter」の代表格であるVerrucomicrobiota 門を培養・分離する手法を開発した研究である。従来分離例の少ない subdivision 1・3・4 を効率的に取得した。同グループが以前報告した培養法を土台にしつつ、窒素濃度や植物体の部位(根や葉状体)が分離結果に与える影響を評価した。このような改良点は難培養門の培養に向けた実践的ブレークスルーを提供した。
Effects of NaCl Treatment on Root Nodule Formation, Isoflavone Secretion in Soybean, and Nodulation Gene Expression in Rhizobia (2024) 39: ME24023
Yoshikazu Nitawaki, Takaaki Yasukochi, Shinya Naono, Akihiro Yamamoto, and Yuichi Saeki
【内容】
本論文は、塩濃度がダイズ根粒菌の着生に及ぼす影響を、植物接種実験と統計解析により多面的に検討している。宿主であるダイズによるイソフラボン分泌の変化と、それに応答する根粒菌のnodC遺伝子発現、塩ストレス耐性が評価された。特にSinorhizobium frediiの優位性は、ゲニステイン応答性の維持によって説明され、アルカリ・塩類集積土壌での優占を科学的に裏付けている。塩ストレス環境下における有効根粒菌の選抜に資する基盤的知見を提供している有意義な成果である。










