和文誌新着記事

微生物生態学会 32巻2号 ハイライト

総説

超微小微生物の実態と多様性  中井 亮佑,玉木 秀幸

微生物学が「肉眼では見えない微小な生物」を対象とする以上,微生物はどこまで小さくなれるのか,という問いは本質的な問題である。近年,系統的に新しい超微小微生物(ultra-small microorganisms)が自然界には存在し,それらが0.2 μmフィルターをも通過することが明らかとなってきた。またその驚くべき多様性は,生物の進化系統樹へパラダイムシフトをもたらしている。本稿では,超微小微生物の研究小史を概観しつつ,その実態について論じる。

微生物が織りなす複雑ネットワーク  東樹 宏和

次世代シーケンサーの登場以降,世界中の研究者が微生物の多様性と群集構造の解明を進めており,「どんな微生物がどこにいるのか」という微生物叢のデータが蓄積されるほど,その微生物群集内での相互作用を包括的に理解しようという欲求が高まってきている。本稿では,微生物同士の関係性や共生微生物とその宿主との関係性を表すネットワークについて,大量サンプルの並列アンプリコン解析を基礎とした事例を紹介する。

リサーチ最前線

病気を起こさず宿主と共存するウイルス  浦山 俊一

一般にウイルスは動植物の病気を引き起こす“病原体”として認識されているが,環境中には宿主に病気を起こさない“共存型ウイルス”も存在することが明らかとなった。本稿では,著者らの“ウイルス感染の分子マーカー”を用いた新たなウイルス探索手法と共に,共存型ウイルスの方が病原性ウイルスよりも多様かつ普遍的に存在している可能性について紹介する。

Candidatus ‘Accumulibacter phosphatis’ の温度感受性  道中 敦子

先進国で導入されている下水高度処理技術は,微生物の持つ特徴を活用し,有機物だけでなく栄養塩(リンや窒素)を同時に除去している。そのうち生物学的リン除去(Enhanced biological phosphorus removal)は,ポリリン酸蓄積細菌(Polyphosphate-accumulating organisms, PAOs)の代謝機構を利用した下水中からリンを除去する下水処理法である。本稿では,このPAOsにおける温度感受性について紹介する。

扉を拓く – 活躍する若手

嫌気性微生物による発電と汚染物質分解~マサチューセッツ大学での微生物燃料電池研究で得たもの~  井上 謙吾(宮崎大学)

家畜の糞尿から微生物を利用して電気を作り出すというご研究をされている,宮崎大学の井上謙吾先生にお話を伺いました。学位を取られてすぐに米国に留学し,それまでとは一見全くテーマの異なる微生物燃料電池の研究へと邁進された井上先生のこれまでと,これからについてお聞きしました。

オーストリア・ウィーン大学での長期在外研究  新谷 政己(静岡大学)

2016年からウィーン大学で長期在外研究をなさっている静岡大学の新谷政己先生に,「扉を拓く」始まって以来初めてとなる,聞き手=書き手という「自問自答」形式で在外研究のきっかけや研究生活についてお話しいただきました。

微生物生態学会 32巻1号 ハイライト

リサーチ最前線

全体像を把握する生物学  緒方 博之

時代は変わりつつある。生物学の隅々にハイスループット技術が導入され,微生物生態学も変貌している。本稿では大規模配列解析技術に基づく海洋生物学研究の現状と今後の発展について筆者の私見を中心に述べられている。

深海外部共生研究分野の成果と展望  和辻 智郎

光の届かない暗黒の世界である深海熱水域には,細菌(外部共生菌)を体に付着させた無脊椎動物が繁栄している。本稿では,沖縄の深海熱水噴出域に生息し,腹側の体毛に外部共生菌を宿しているゴエモンコシオリエビを対象とした外部共生菌の機能と役割について著者らの研究成果を中心に最新の深海外部共生研究を概説する。

メタトランスクリプトーム解析によって導かれた,還元的窒素変換反応への鉄還元菌の関与  増田 曜子

次世代シーケンサーによる大規模塩基配列解析技術の発展に伴い,近年様々なサンプルのオミクス解析が次々に行われている。メタトランスクリプトーム解析は,従来の分離培養法やPCRベースの手法に伴うバイアスの回避が可能であると著者は考える。著者らの行った水田土壌におけるメタトランスクリプトーム解析によって導かれた新たな知見を本稿では紹介する。

大気中の水素が植物と微生物の共生関係に関与する可能性  菅野  学

植物の体内には,植物1グラムあたり数十から数百種,細胞数にして102–107の細菌が存在する。植物と微生物の相互作用の基盤には可溶性化合物や表面接触がよく知られるが,一方で,ガス分子の共生関係への関与は,微生物の大気窒素固定を除くとあまり調べられていない。本稿では,微生物の大気水素の取り込みが植物共生に寄与するかを検証した試みについてご紹介する。

扉を拓く – 活躍する若手

独方見聞録  竹下 典男(筑波大学)

東京大学で学位取得後,すぐにドイツ留学され,グループリーダーまで勤められた竹下典男博士が,10年間の留学生活を終えて帰ってこられました。今回は,この10年にわたる貴重なご経験をお話し頂きました。

10 年間にわたる3 ヶ国見聞記~アメリカ,ドイツ,日本での研究生活を振り返って~  寺島 美亜(北海道大学低温科学研究所)

学生時代に植物生理学の分野から始まり,モデル緑藻のクラミドモナスを使用した研究を経て,現在は雪原環境に観察される赤雪の微生物の研究に携わっていらっしゃる北海道大学の寺島美亜先生に,10年間3か国に渡る海外と国内での研究生活についてお話を伺いました。

微生物生態学会 31巻2号 ハイライト

総説

抗菌薬剤感受性試験結果に基づく銅イオン溶液の抗菌・殺菌作用過程  石田 恒雄

金属イオンと金属錯体は,生体系物質のアミノ酸,タンパク質,酵素などとの生体分子との相互作用,環境中に排出する病原性微生物の生態と制御,医薬への応用や病原菌や疫病との関係についての関心が近年急速に高まってきている。銅イオンは,抗菌,防汚剤や殺菌剤などに広く利用されているが,銅イオンと銅錯体は抗菌・抗ウイルスに対してより高い有効薬剤として発現されることが予想される。本稿では,グラム陰性菌あるいはグラム陽性菌に対する表層構造である細胞壁,細胞質膜,細胞質の各過程における銅(II)イオンの移動,反応,透過に伴う抗菌・殺菌作用を溶菌機序と金属錯体形成論から解析・考察し,明らかにした銅(II)イオンによる抗菌作用機構について紹介する。

氷河・積雪上の微生物の生態  瀬川 高弘,竹内 望

グリーンランドをはじめとする北極圏を中心に,雪氷上に繁殖する「雪氷微生物」に各国研究者の関心が近年高まっている。その理由は,地球温暖化に伴い北極の雪氷環境が急激に変化していること,予想を上回る近年の雪氷の融解量にこの雪氷微生物が関与していると考えられることである。さらに,氷河や氷床の後退や雪氷微生物の存在は,北極に限ったことではなく,全世界の雪氷圏に共通している。今まで生物学的にほとんど注目されることがなかった雪氷圏が,一つのバイオームとして認知されるようになった。雪氷上で繁殖する好冷性または耐冷性の雪氷微生物は,氷河の表面に現れる雪氷藻類とよばれる光合成微生物,そしてその生産物に依存した従属栄養性細菌などで構成される。本稿では,雪氷微生物とはどのような微生物なのか,最近報告されている論文を中心に紹介する。

リサーチ最前線

排水処理生物反応槽におけるN2O を還元可能な細菌群の利用可能性  寺田 昭彦,末永 俊和

亜酸化窒素(N2O)は二酸化炭素の約300倍の温室効果を示すことに加え,フロンに替わるオゾン層の破壊に寄与する21世紀最大の原因物質として知られている。N2O削減に寄与する脱窒細菌や,N2O還元以外の脱窒酵素を保有しない偏性的なN2O還元細菌の生理・生態は,排水処理施設をサイトとした研究はあまり進んでいないが,排水処理施設からのN2O放出量削減の必要性が論じられてきている。本本稿では,このN2O削減の解決策になりうる,N2O還元細菌の重要性とN2O 還元細菌の活性を維持可能な環境を模擬するバイオフィルムリアクターについて紹介する。

扉を拓く – 活躍する若手

新たな分離培養技術が照らす未来~硝化菌の獲得から学んだこと~  藤谷拓嗣(早稲田大学)

2015年のコマモックスの発見は大きな注目を集めています。今回は,未培養の硝化菌の分離培養に挑戦し続けておられる,早稲田大学の藤谷先生にお話を伺いました。

放射光を使った微生物研究―これまでの研究を振り返って―  光延 聖(愛媛大学)

放射光源X線顕微鏡をメインツールとして,海底下の岩石圏と陸上の土壌圏での微生物-鉱物-元素相互作用について研究している愛媛大学の光延聖先生にお話を伺いました。

微生物生態学会 31巻1号 ハイライト

リサーチ最前線

「私を地底に連れてって」陸域地下圏の微生物研究への招待  清水 了,上野 晃生

陸域地下圏フィールドの多くで地層中のメタンは微生物起源であることが同位体分析の結果からわかっている。著者らは微生物は岩盤内の亀裂システムに偏在していると考えており,実際に亀裂が目視できない岩石からは微生物がほとんど培養されないし,DNA も従来の方法では抽出できない。微生物学的には,メタン生成微生物群の遺伝子も検出され,培養に成功した成果は既に論文にまとめられている。しかし,日本国内における陸域地下圏の微生物研究は研究者の絶対数が少ないため,まだまだ未開の分野といえる。著者らの研究フィールドである微生物起源のメタンが生成するメカニズムと関連するトピックスをいくつか紹介したい。

単一細菌ゲノムデータのクオリティコントロール  丸山 徹,竹山 春子

MDA (Multiple Displacement Amplification)やMALBAC (Multiple Annealing and Looping Based Amplification Cycles)といった全ゲノム増幅技術の普及に伴い,単一細菌からのゲノム解読が一般化しつつある。近年では,この技術を利用して,培養の困難さが原因となりゲノム情報が全く得られていない系統群のゲノム解析を試みた事例が多数報告されている。本稿では,著者らが提唱した,新規性の高い種を解析対象とする場合にも適用可能なクオリティコントロール法について概説している。

扉を拓く – 活躍する若手

米・マサチューセッツ工科大学への留学,研究環境の効率性について感じたこと  佐々 文洋(筑波大学)

微生物を細胞レベルで分離・検出・解析する技術には,小さなデバイスを利用する手法があります。今回は,そのような微小なデバイスの研究を専門としながら,微生物の研究もされている,筑波大学の佐々文洋博士にお話を伺いました。

嫌気性アンモニウム酸化細菌と共に~これまでの研究生活を振り返って~  押木 守(長岡高等専門学校)

廃水処理での窒素代謝に大きく寄与する嫌気性アンモニウム酸化(anaerobic ammonium oxidation; anammox)細菌の生理生態について,学母体学会は土木学会,本職は微生物を用いた廃水処理技術の開発をしていらっしゃる長岡高専の押木 守博士にお話を伺いました。

鉄に魅せられて~米デラウェア大学への留学体験記~  加藤 真悟(海洋研究開発機構)

同じ微生物学・微生物生態学でも,地上と地下,土と水で大きく世界が変わります。今回は,深い海の底に生息する微生物を研究されている,海洋研究開発機構の加藤真悟博士にお話を伺いました。

微生態和文誌30巻2号 ハイライト

総説

メタゲノム情報を基盤とした土壌細菌コミュニティの解析  加藤 広海、小川なつみ、津田 雅孝

微生物は地球上の広範な環境に棲息し,各環境に特有なコミュニティを形成しながら,生態系にとって必須な機能の根幹を担っている。近年のシーケンス技術の向上および低コスト化によって,世界的規模で環境メタゲノムデータが爆発的に蓄積されている。それら環境メタゲノムデータの比較によって,我々にとって最も身近な存在である土壌環境が地球上で最も微生物多様性に富んだ環境であることがわかってきた。これら莫大な多様性を持った微生物コミュニティは,メンバー間で互いに密接に関わり合いながら,物質循環だけでなく環境汚染物質浄化など,様々な土壌機能を支えていると予想される。筆者らの研究室では,閉鎖系の汚染土壌のメタゲノムを経時的に比較し汚染に対する遺伝子プールの変動様式を解析した結果,土壌微生物生態系が化学物質による一時的な撹乱に対してロバスト性(外的・内的撹乱に抗って機能を維持する性質)を有していたことが判明した。一方で,このような環境サンプルは“再現性”や“普遍性”を議論しにくいため,何らかの実験系で検証しその取得情報とメタゲノムデータを関連づける必要がある。本稿では,(1)添加汚染物質分解における微生物間の協調的関係,および(2)土壌撹乱の後に菌叢が元に戻る現象について,当該土壌から回収した細菌(群衆)を用いた実験系で得られた成果をメタゲノムデータと照合しながら紹介する。

微生物のシングルセルゲノミクス研究の現状と未来  モリ テツシ

自然界は様々な特殊な環境から成り,その中では多様な微生物がその環境に合った特有な生態系を構成し共存することで環境や生態系を維持するための重要な役割を担っていると考えられる。しかしながら,環境中の微生物の99% 以上は難培養微生物(未知・新種を含む)と言われており,従来の培養技術に依存した解析ではこれらの微生物にアクセスすることが困難だった。そこで,培養技術に依存しないアプローチである,メタゲノミクスが考案され,難培養微生物叢の機能に加えて生態系や環境中における微生物の影響などを理解することもできるようになった。しかしながら,メタゲノミクスでは様々な微生物のゲノムをミックスした情報が得られるため,個々の微生物の生態系内での役割を明確に知ることは不可能であった。このような背景の中,2004 年にRoger Lasken 率いる研究グループが世界で初めて大腸菌の単一細胞からゲノムを解読することに成功し,ここから微生物を対象としたシングルセルゲノミクス(SCG)が一気に開花した。本総説では,SCG の発展の流れや応用例をあげながら,SCG の最新の取り組み,今後の課題や展望について紹介する。

 

リサーチ最前線

植物共存細菌の多様性を正しく評価する技術イノベーション  池永 誠、境 雅夫

植物の表面や内部に生息する細菌(植物共存細菌と呼ぶ)の多様性を迅速かつ簡便に解析する方法は未だ確立されておらず,その活用研究は遅れている。とりわけ植物共存細菌のSSU rRNA 遺伝子をPCR増幅して多様性を解析する分子生態学的研究においては,宿主植物に由来するオルガネラ(ミトコンドリアおよびプラスチド)の遺伝子が過剰に増幅され,植物共存細菌の多様性が過小評価される重大な問題が存在する。そこで,この問題に対してブレイクスルーとなり得る新技術,すなわち「PCR 過程においてオルガネラ遺伝子の増幅を抑制する一方で,植物共存細菌の遺伝子を選択的に増幅する技術」を,Locked Nucleic Acid(LNA)を含むオリゴヌクレオチド(LNA オリゴ)によるPCR クランプ技術を適用して開発したので,そのメカニズムと効果について紹介する。

微生態和文誌30巻2号

9月1日発行号 目次

総説

メタゲノム情報を基盤とした土壌細菌コミュニティの解析 加藤 広海、小川なつみ、津田 雅孝

微生物のシングルセルゲノミクス研究の現状と未来            モリ テツシ

リサーチ最前線

「植物共存細菌の多様性を正しく評価する技術イノベーション」  池永 誠、境 雅夫

 

扉を拓く - 活躍する若手

・つくばからチューリッヒ,そしてつくば,またチューリッヒ                                                            豊福 雅典

微生物の生態を理解する上で、個々の細胞どうしが集団内でどのような相互作用をしているのかを理解することは、その微生物集団の運命を左右する重要な現象です。今回は、バイオフィルム研究を皮切りに、メンブランベシクルを介した細胞間相互作用について研究を発展させてきた、筑波大学の豊福雅典博士にお話を伺いました。

・スイス・ローザンヌ大学への海外留学と現在の研究   宮崎 亮

バクテリア細胞集団における不均一性を理解することは、微生物の生態を理解する上で重要な視点として、高い注目を浴びています。今回はバクテリアの生理・適応・進化について、集団内での不均一性という視点から研究をされている、産業総合技術研究所の宮崎亮博士にお話しを伺いました。

 

世代を超えて

三つの失敗   小暮一啓 先生

微生物学の潮流   前田広人 先生

 

スポットライト:イケメン&イケジョ

vol.17  森 浩二

vol.18 永田 恵里奈

vol.19 野田 悟子

vol.20 玉木 秀幸

 

書評、会務報告、お知らせ 他

微生態和文誌30巻1号

2015年度 大会案内  大会への招待状 太田大会実行委員長

巻頭言 科学のネットワークを張り巡らせましょう    南澤会長

 

リサーチ最前線

1細胞ゲノム解析によるシロアリ腸内共生系の解明   雪 真弘、大熊盛也

 

環境微生物学系学会合同大会 浜松大会 ポスター賞受賞者紹介

M&Eハイライト Editor’s Choice (vol.29-3,4)

扉を拓く - 活躍する若手

ゲノム研究で世界をリードするJ. Craig Venter Instituteでの研究生活    鈴木志野

地圏微生物学のおはなし 〜論文投稿の厳しさと優しさ〜  真弓大介

一般ポスドクのMIT留学体験記:海外でしか得られない情報・技術なんてほとんどない時代に留学って必要?     吉澤 晋

第8回細菌学若手コロッセウム in ニセコ 参加報告         藤吉奏、楊佳約

 

世代を超えて

Die Welt und die Umwelt                               加藤憲二

多様性のハーモニー                                     平石 明

 

スポットライト:イケメン&イケジョ

vol.13 成澤 才彦

vol.14 鮫島 玲子

vol.15 金田一 智規

vol.16 大坪 和香子

 

国際学会見聞録

ISME 参加報告                                     成廣隆 伊地知稔 大林翼

6th KJT symposium報告      村瀬潤 大坪和香子 鈴木研志

 

アウトリーチシーン

学術交流と発信の現場から

多様性のある研究環境を目指して:微生物生態学会男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会 活動報告

いま北の国がアツイ! 〜札幌微生物勉強会への招待〜 石井聡

書籍紹介 「環境と微生物の事典」

会務報告

お知らせ

第一回日本微生物生態学会奨励賞授賞候補者推薦の募集

第17回 マリンバイオテクノロジー学会大会開催のお知らせ

会則

微生物生態学会 30巻1号 ハイライト

リサーチ最前線 

1細胞ゲノム解析によるシロアリ腸内共生系の解明   雪 真弘、大熊盛也

シロアリは木材を餌とすることから害虫として扱われているが、熱帯林においては植物バイオマスの重要な分解者である。シロアリ腸内には、原生生物、古細菌、真正細菌が共生し、植物バイオマスの分解や窒素固定等を行っていることが知られている。さらに、原生生物の細胞内、細胞表面にも細菌が共生しており、多重共生系を構築している。しかし、共生するほとんどの微生物が難培養性であるため、培養を介さない手法による解析が必要であった。これまでに、メタトランスクリプトームやメタゲノム解析などの培養を介さない手法により、微生物群集全体の機能が明らかにされてきた。近年、様々な手法が開発され、細菌1細胞からゲノム解析を行うことが可能となり、環境中の難培養微生物のゲノム解析が世界中で精力的に進められている。本稿では、筆者らが行っているシロアリ腸内細菌の1細胞ゲノム解析の手法を中心に紹介する。

 

扉を拓く - 活躍する若手

ゲノム研究で世界をリードするJ. Craig Venter Instituteでの研究生活  鈴木志野

海外の研究機関で研究者としてのキャリアを積むということはどのような魅力や苦労がそこに伴うのでしょうか?今回は、アメリカのJ. Craig Venter Institute (JCVI)で活躍中の鈴木志野研究員にアメリカでの研究生活やご自身の研究内容である蛇紋岩水圏の地下生命圏についてお話を伺いました。(聞き手:広島大 青井議輝)

 

地圏微生物学のおはなし 〜論文投稿の厳しさと優しさ〜  真弓大介

温室効果ガスとして知られる二酸化炭素の削減方法として深部地下に貯留する、CO2 回収・貯留(CCS)技術が注目を集めています。今回は、CCS技術が深部地下油層環境の微生物生態系に与える影響について報告した、産業総合技術研究所の眞弓大介研究員に、地下圏微生物生態系の最新研究とその産業利用の可能性についてお話を伺いました。

微生態和文誌29巻2号 ハイライト

総説

空間行動から読み解く海洋微生物の種分化プロセス  八幡 穣

遊泳性・走化性・表面付着・バイオフィルム形成などの能力で、微生物は環境中を移動したり好ましい場所にとどまったりすることができる。こうした行動を「空間行動」と呼ぶことにしよう。微小な微生物の空間行動は微弱であり、共存や種分化といった進化的に重要な現象を駆動することは無い―とする考えがこれまでは主流だった。筆者らはこれをくつがえし、新しい技術を用いて微生物の空間行動を直接観察することで、空間行動が微生物の進化的生態(共生・種分化)の重要な要素であることを解明した。筆者らは、空間行動の分化が“競争力と移動力のトレードオフ (Competition-colonization tradeoff)”を創りだすことにより、種分化直後のV. cyclitrophicusの系統間での共存が達成されることを明らかにした。“競争力と移動力のトレードオフ”とは、近縁種の共存を空間行動の違いから説明する理論であり、動植物の行動生態学における基本的な原理の一つだ。こうしたマクロスケールの生態学で発展した動植物の共存を説明するための原理が、マイクロスケールの微生物にも適応できるとはこれまで考えられてこなかった。この発見を可能にしたのは、微生物の空間行動を直接観察するための新しい技術(マイクロ流体デバイス)である。こうした新技術と行動生態学のアイデア、そして集団ゲノミクスと分子生物学を融合させた研究結果から得られたモデルは、海洋細菌の種分化メカニズムがこれまで考えられていたものよりはるかにシンプルであることを示唆している。

 

細胞外電子伝達:固体を呼吸基質とする微生物たち  加藤 創一郎

すべての生物は生命を維持するため、さらには子孫を増やすために、エネルギーを獲得し続けなくてはならない。生物がエネルギーを得るための手段には、呼吸、光合成、発酵の3種類が存在する。いずれの場合も、根幹にあるのは物質の酸化還元とそれに伴う電子移動反応である。通常の生物は可溶性あるいはガス状の物質を細胞の外部から内部へ取り込み、細胞内でその酸化還元反応をおこなう。しかしある特殊な微生物は、不溶性・固体状の物質から電子を得る、あるいは電子を捨てることでエネルギーを獲得している。他の生物が利用できない固体物質をエネルギー代謝に利用できることは、その生物に対し生態的、進化的なアドバンテージを与える。一方で固体物質を利用するためには、ある特殊な分子機構を備えている必要がある。その特殊な分子機構こそ、本総説にて解説する「細胞外電子伝達」である。本総説では、微生物の細胞外電子伝達について、そのメカニズムと応用利用の可能性について解説する。

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