微生物生態学会38巻1号 ハイライト
総説
Candidate phyla radiation (CPR)/Candidatus Patescibacteriaの実態を廃水処理システムの視点から理解する
黒田 恭平,成廣 隆,藤井 直樹,中島 芽梨,景政 柊蘭,中井 亮佑,佐藤 久,久保田健吾,金田一智規
本報では主に廃水処理システムに生息するCandidatus Patescibacteriaを対象とし,フィルターろ過による濃縮技術の開発,rRNA 情報を利用した Ca. Patescibacteria の評価技術の開発,ショットガンメタゲノム解析に基づく生態学的機能の推定,培養法に基づく新奇な寄生/共生関係の発見などに関する最新の報告について概説する。
無酸素環境に棲息する新門Atribacterota門(旧OP9)細菌の生理生態 片山 泰樹, 玉木 秀幸
著者らの所属研究機関では,これまでに様々な環境から3つの新門に帰属する細菌株の純粋培養に成功し新学名の提案を行ってきた。本稿では,古くからその存在が知られていながら永く未培養門であり続けたOP9候補門の初の純粋分離株の獲得に至った経緯と培養によって初めて明らかとなったAtribacterota門細菌のユニークな生理生態機能について概説する。
リサーチ最前線(第35回大会の優秀ポスター賞受賞者からエディターズチョイス)
メタン酸化細菌コミュニティーを決定する環境因子 蒲原 宏実 広島大学
本研究ではメタン濃度,pH,アンモニウム濃度の異なる38基のDown-flow hanging spongeリアクターを用いてメタン酸化細菌を培養し,メタン酸化細菌のコミュニティーにおいて優占するTypeを決定する環境因子がpHとアンモニウムであることの特定に成功した。
原核生物の進化も選択の連続である 大前 公保 東京大学
遺伝子の二者択一進化が起こる要因は大きく2つあり,1つは「機能の代替」であり,もう一つは「異なる適応戦略の採択」である。本研究では,原核生物で起こった遺伝子の二者択一進化を網羅的に解析した結果,エネルギー生産や脂質代謝などの特定の機能で遺伝子の二者択一進化が起こりやすいことや環境変化に応じてより適応的な遺伝子が選ばれることなどの事実を明らかとした。
難培養微生物の重要性:ラボ内で構築・理解する複合系における微生物相互作用 中原 望 産業技術総合研究所
本研究は,難培養微生物であるCloacimonadota門(WWE1門)の分離株を対象に水溶性タンパク質の中でも特に熱力学的に難分解性の分岐鎖アミノ酸を利用すること,ラボ内で再構築したプロピオン酸酸化系においてメタン生成アーキアと共生するとより生育が早くなるとともにプロピオン酸分解速度とメタン生成速度が向上する傾向があることを明らかとした。