微生物生態学会37巻1号 ハイライト
総説
機能未知遺伝子の機能を推測するバイオインフォマティクス:AlphaFoldから遺伝子誕生学へ 岩崎 渉 東京大学
バイオインフォマティクスという言葉が定着した1990年代から現在に至るまで,シーケンス技術の急速な進化や公共データベースの拡充,ディープラーニング技術を用いてアミノ酸配列からタンパク質の立体構造を極めて正確に予測するソフトウェアAlphaFoldの登場など,21世紀の生物学分野における革命的な変化について本稿では著者らが明らかにしてきた研究成果の一部とともに概説する。
ゲノムから読み解く細菌間コミュニケーションの多様性 諸星 知広,櫻岡 良平,染谷 信孝
現在の生物学において,単細胞生物である細菌も周囲の仲間や他の微生物,植物,動物とコミュニケーションを取り合いながら社会的な活動を行っていることはすでに常識となっている。これらのコミュニケーションには,我々人間の世界で言う「言語」としてのシグナル物質を介した情報伝達機構が用いられている。本稿では,数ある細菌間コミュニケーション機構の一つであるQuorum Sensingについて著者らの研究成果とともに紹介する。
リサーチ最前線(第34回大会の優秀ポスター賞受賞者からエディターズチョイス)
難培養性細菌ゲノムを広く活用可能にするために 水谷 雅希
培養を介さないメタゲノム解析手法では遺伝子のノックアウトや過剰発現による遺伝子機能の解析が困難であるが,筆者らは酵母TAR (Transformation-Associated Recombination) 法を利用することで難培養性昆虫共生細菌の全ゲノム (0.1-0.2 Mb) や0.6-0.7 Mb程度のゲノムサイズを有する細菌種の複数ゲノム断片を酵母内にクローニングすることに成功した。
新たな三者共生系の解明 昆虫-カビ-バクテリアの三者共生系 石神 広太
筆者らはホソヘリカメムシとBurkholderia属細菌の共生関係に着目し,土表面に置かれたホソヘリカメムシの死骸表面にカビが生えることを発見した。Burkholderiaと死骸分解性カビCunninghamellaの関係性を解析した結果,Burkholderiaの宿主からの脱出や土壌中での分散だけでなくホソヘリカメムシ-Burkholderia相利共生系の進化においてカビが重要な役割を果たしている可能性が強く示唆された。
扉を拓く
顕微ラマン分光法で読み解く微生物の姿 菅野菜々子 関西学院大学
本稿では,細胞を構成するタンパク質・脂質・核酸などの生体分子情報から成る「ラマンスペクトル」を1細胞レベルで取得し解析する「顕微ラマン分光法」との出会いや具体的な研究内容とその面白さについて菅野菜々子博士に紹介していただきました。
世代を超えて
私の学業分野と微生物生態学―工学と理学(科学)の視点の相違性と相互性 遠藤銀朗 東北学院大学工学総合研究所
土木工学の中でも多くの異分野との融合が求められてきた衛生工学・環境工学を学業上のバックグランドとされる遠藤先生に,土木工学分野を中心に工学と理学の学術的目的意識の違いと相互に関連し融合しあう必要性などについて,丁寧にわかりやすく解説していただきました。