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2016年度M&E論文賞選考結果のお知らせ

 

2015年「M&E論文賞」は下記メンバーから成る選考委員会による厳正な選考の結果ならびに編集委員長の最終判断によって以下のように決定しました。

 

論文賞選考委員:花田智(選考委員長),二又裕之,丸山史人,齋藤雅典,久我ゆかり,九町健一[敬称略]

 

選考対象論文:2015年にMicrobes and Environmentsに掲載された総説等を除くオリジナル論文すべて。

 

論文賞受賞論文ならびに著者

Burkholderia of Plant-Beneficial Group are Symbiotically Associated with Bordered Plant Bugs (Heteroptera: Pyrrhocoroidea: Largidae).

Takeshita, Kazutaka; Matsuura, Yu; Itoh, Hideomi; Navarro, Ronald; Hori, Tomoyuki; Sone, Teruo; Kamagata, Yoichi; Mergaert, Peter; Kikuchi, Yoshitomo. 30 (4): 321-329.

 

論文賞授与理由

本論文はカメムシの腸内共生細菌(Burkholderia属細菌)についての極めて価値の高い報告である。CoreoideaまたはLygaeoidea上科に属するカメムシよりも系統的に古い系統群であるPyrrhocoroid上科に分類されるカメムシの腸内を対象とした研究により、著者らはこれまで一般的にカメムシ共生細菌として認識されていたもの(Stinkbug-associated beneficial and environmental group: SBE)とは別の細菌系統群が共生していることを見出した。興味深いことに、この新規系統群は植物に共生してその生育を促進する細菌(Plant-associated beneficial and environmental group: PBE)と系統進化学的に近縁だった(著者らは、この新規系統群を「昆虫に関係したPBE」という意味でinsect-associated PBE: iPBEと呼んでいる)。カメムシの系統関係を考慮すると、カメムシ共生細菌はその進化過程でiPBEからSBEに置き換わっていった可能性が強く示唆される。このような共生細菌の遷移はカメムシに限定されたものではなく、昆虫全般の共生細菌研究に対しても大きなインパクトを持つ発見と言える。なお、本研究では、腸内細菌の群集構造解析ばかりではなく、広範なフィールド探索によるサンプリングや組織解剖学的解析、FISHによる共生細菌の存在確認など、多岐にわたる研究が行われている。この多様な研究手法を適切に、且つ効果的に用いることにより、論文に強い説得力が付与されているのである。本論文の選考に関しては、昆虫とバクテリア共生関係の進化に関わる重要な発見のみが判断基準になっただけではない。本論文の持つ高い説得力とそれを産み出した適切な研究プランニング、良く整理された分かりやすい論文構成などについても高く評価され、その結果として、本研究論文に論文賞の栄誉が与えられた。

 

 

選考委員会で挙げられた優秀論文について

6名の選考委員による議論の過程で以下の論文賞候補に挙がりました。これらの論文はいずれも価値の高い魅力的なものであり、選考委員から高く評価されたことから「2015 Microbes and Environments論文賞選考委員会が選んだ優秀論文」として以下の6つの論文を併せて発表いたします。各優秀論文には各々の委員からのコメントが添えられています。

 

【二又セレクト】

Nitrosomonas stercoris sp nov., a Chemoautotrophic Ammonia-Oxidizing Bacterium Tolerant of High Ammonium Isolated from Composted Cattle Manure. Nakagawa, Tatsunori; Takahashi, Reiji. 30(3): 221–227.

 

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1000 mMのアンモニウム存在下という信じられない条件下で生育できる株を分離し、高濃度アンモニウム存在環境でのアンモニウム除去に関わる微生物生態系について、これまでにない大きな一端を示した論文である。この論文の特徴は、極限環境でもない極普通の環境ではあるものの高濃度アンモニウム存在という特殊環境に適応している微生物の存在と機能について分離した微生物を用いて実証したものであり、微生物生態の奥深さを改めて伝え得る論文である。サンプリングから論文掲載まで8年、分離菌株名が分離源である厩舎の堆肥からの菌株ということでしょう、その名もKYUHI-S(愛が感じられる)。分離に使用した培地のNH4+濃度は38 mM。厩舎堆肥を希釈し試験管で培養、でも1週間で数秒しか振らないという技ありの培養。その後に継代培養でも無振とう培養を実施。38 mMのNH4+から8 mMのNO2へ変換した。分離菌株の細胞も新しい構造を有しており、細胞学および微生物学的に今後の解析が楽しみである。今後、堆肥化に伴う本属細菌の動態、ゲノム解析、アンモニウムを初めとする窒素循環における機能的意義など、生態学的解析を期待したい。

 

【丸山セレクト】

An Efficient Strategy Developed for Next-Generation Sequencing of Endosymbiont Genomes Performed Using Crude DNA Isolated from Host Tissues: A Case Study of Blattabacterium cuenoti Inhabiting the Fat Bodies of Cockroaches. Kinjo, Yukihiro; Saitoh, Seikoh; Tokuda, Gaku. 30(3): 208-220.

 

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本研究には、色々な意味で「努力賞」を送りたい。内容としては、現在とてもホットな話題である昆虫の内部共生細菌の(ドラフト)ゲノムを効率よく決定する戦略を開発したというものである。現在、深海を含む様々な環境で宿主とその共生細菌とのクロストークを解明すべく多くの取り組みが行われており、その最初のステップとして共生細菌のゲノムを決定するというのは当然のことである。その一方でほとんどのこのような細菌は培養困難であり、しかも宿主の核やミトコンドリアゲノムのコンタミにより、配列の取得も難しい。そのため、量が得られない場合にはシングルセルゲノミクス技術も日進月歩である。このような現状のなかで、実験的に共生菌を分離することを試みるではなく、新しいアルゴリズム、方法論の開発を試みるでもなく、強いて既存の方法を多数組み合わせる「戦略」により、既存の方法と比べてもっともよい結果を得られたとしている。用いている対象、目標は極めて微生物生態学において重要性は高いが、本論文に目を通すと一目瞭然であるが、ME誌において異色な図表、論文内容である。しかも、その内容は重厚であり、本論文の著者と査読者の過酷な闘いが、情報解析に通じていない読者にも容易に想像できる。よって、普通に考えると、DNA配列取得に関わる費用は安価になってきているのだから、実験的によりよいDNAを調製してしまえばよいと易きに流れてしまいがちの課題に、ここまで粘り強く取り組めた著者らの心意気を高く評価したい。

 

【齋藤セレクト】

Insecticide-Degrading Burkholderia Symbionts of the Stinkbug Naturally Occupy Various Environments of Sugarcane Fields in a Southeast Island of Japan. Tago, Kanako; Okubo, Takashi; Itoh, Hideomi; Kikuchi, Yoshitomo; Hori, Tomoyuki; Sato, Yuya; Nagayama, Atsushi; Hayashi, Kentaro; Ikeda, Seishi; Hayatsu, Masahito. 30(1): 29-36.

 

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Tago論文は、殺虫剤フェニトロチオン分解細菌を共生するカメムシは殺虫剤抵抗性を示すという最近の研究トピックに基づき、フェニトロチオン施用来歴が異なり、同一の土壌気象条件、栽培もサトウキビ単作地帯である南大東島をフィールドとし、土壌等のフェニトロチオン分解菌の密度等の調査とともに、カメムシの共生細菌Burkholderiaの組成と分解活性について調査した。それらの結果から、土壌・根圏が共生細菌のリザーバーとして機能していることが明らかになった。この論文は、土壌・作物と作物を食害する害虫が共生細菌を通して、農薬施用のような環境負荷の下で相互に密接に関連していることを示した論文として評価できる。

 

【久我セレクト】

A New Fractionation and Recovery Method of Viral Genomes Based on Nucleic Acid Composition and Structure Using Tandem Column Chromatography. Urayama, Syun-ichi; Yoshida-Takashima, Yukari; Yoshida, Mitsuhiro; Tomaru, Yuji; Moriyama, Hiromitsu; Takai, Ken; Nunoura, Takuro. 30(2): 199-203.

 

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本論文はハイドロキシアパタイトとセルロースクロマトグラフを用い、環境中ウイルスの核酸4種(dsDNA、ssDNA、dsRNA、ssRNA)を同時に、高効率で検出する画期的な新規手法を提案したものである。ウイルスの探求研究が、網羅的に検出する方法の欠如により大きく影響を受け、ウイルス核酸種にバイアスがかかっていると想定される現状にチャレンジし、同時検出かつ酵素フリー化による収率改善を達成したものである。この新技術開発は、ウイルス学の発展に大きく貢献することが期待できる。

 

【九町セレクト】

Population Structure of Endomicrobia in Single Host Cells of Termite Gut Flagellates (Trichonympha spp.). Zheng, Hao; Dietrich, Carsten; Thompson, Claire L.; Meuser, Katja; Brune, Andreas. 30(1): 92-98.

 

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3重共生(バクテリアが鞭毛虫に共生し、その鞭毛虫がシロアリの腸に共生する)についての論文である。宿主に共生しているバクテリアの群集構造を16S rDNA遺伝子を用いて解析するといった研究は、次世代シーケンサーが普及した昨今、大変ありふれているが、本研究はそれを単一の宿主個体(鞭毛虫)に対して行うという工夫が際立っていた。それぞれの鞭毛虫個体には単一系統の共生バクテリアのみが共生しており、しかも鞭毛虫の種により共生バクテリアの系統は異なるという、著者らがこの実験系の設計から狙っていたであろう結果がきれいに得られた。また、タグ付きのライブラリーを次世代シーケンサーで解析する際に起こるエラーを発見し、その危険性を指摘した点も関連研究に貢献すると考えられる。

 

【花田セレクト】

A Comprehensive, Automatically Updated Fungal ITS Sequence Dataset for Reference-Based Chimera Control in Environmental Sequencing Efforts. Nilsson, R. Henrik; Tedersoo, Leho; Ryberg, Martin; Kristiansson, Erik; Hartmann, Martin; Unterseher, Martin; Porter, Teresita M.; Bengtsson-Palme, Johan; Walker, Donald M.; De Sousa, Filipe; Gamper, Hannes Andres; Larsson, Ellen; Larsson, Karl-Henrik; Koljalg, Urmas; Edgar, Robert C.; Abarenkov, Kessy. 30(2): 145-150.

 

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このような地味ながらも、役に立つ論文を評価しないわけにはいかない。リボソーム遺伝子のスペーサー領域のひとつであるITS配列は糸状真菌類の同定、特に種同定に関して広く使われている。しかし、データベース中にはキメラ配列(由来の異なる配列が入り交じったもの)が少なからず含まれており、同定の障害となっていることも知られている。本論文はデータベース中に含まれているキメラ配列を検出し、検出されたものの参照データセットを菌類研究に広く利用されているUNITEデータベース(真菌類の研究に広く利用されているデータベース)にアップロードしたことを報告したものである。著者の弁を借りれば、既存の国際的データベースINSDC中にアップロードされたITS配列のうち、キメラの率は10%を越える(!)という。次世代型DNAシーケンサーの爆発的普及によって膨大なデータが登録される昨今だが、配列データの質は必ずしも十分に精査されているわけではない。データベース中のデータの信頼性を保つためには、この論文がしめすような地味な努力が欠かせないのだ。こんな素敵な論文がMicrobes and Environments誌に掲載されるなんて嬉しい限りだ。また、本論文の引用件数は2015年度に本誌に出版された論文の中でも群を抜いており、それからだけでも、この論文の重要度をはかり知ることが出来るだろう。