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2017年日本微生物生態学会奨励賞・授賞理由(中川 聡氏)
Posted On 06 9月 2019
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中川氏は、深海の熱水システムにおいて、培養困難な微生物の分離に成功し、さらに、ゲノム解析・比較ゲノムにより網羅的に物質代謝機能を理解し、ピロリ菌等の病原菌の起源にせまる重要な科学的発見をした。さらに、微生物学のみならず地球科学との境界領域で新らたな分野創出に期待される。特筆すべき研究の特色は、1)深海環境を試験内で再現した独自の培養法を構築し、深海低熱水活動域などの極限環境に優占する微生物群を網羅的に分離し、生理生化学的性状を解明した点、2)微生物学と地球化学・地質学を融合し、海洋の極限環境における生命活動を学際的に解明した点、3)海洋の極限環境微生物の全ゲノム解析を世界に先駆けて解明した点の3点である。学術的および社会的にインパクトのある研究成果として、深海微生物の細胞表層糖鎖の生合成経路などの共生機構が、後に人類の病原性微生物の感染機構のコアとなったことを明らかにし、病原菌の画期的治療開発につながりうる成果として国際的な評価を受け、特許や独自の解析ソフトなど応用展開にも積極的である。
また、中川氏は、大学院生をエンカレッジし将来期待される研究者を育て上げており、他の生態学分野の若手研究者との会を主催するなど新規の研究分野開拓に努力し、北海道新聞の寄稿など盛んなアウトリーチ活動を行っていることも高く評価できる。
以上のような微生物生態学への学術的貢献,学会や社会への貢献,研究者としての将来性を総合的に考慮し,選考委員は全会一致で中川 聡氏を第三回(2017年度)日本微生物生態学会奨励賞受賞者に相応しいと判断した。