2017年度日本微生物生態学会奨励賞・受賞の言葉(中川 聡氏)
微生態は、えぇ感じ
中川 聡
この度は日本微生物生態学会奨励賞という栄誉ある賞をいただき、大変光栄に存じます。お忙しいなか選考にあたって下さった選考委員の先生方に深く御礼申し上げます。今回の受賞はひとえに関係者の皆々様のご支援ご鞭撻の賜であり、ここに改めて深甚の感謝を申し上げます。
微生物生態学会(以下、微生態)に初めて参加させてもらったのは、2001年の静岡大会でした。深海底熱水活動域から新規微生物を分離し性状解析した、という内容で発表しました。当時のメモには【「キノンは本当か、MASにかけた方が良い」と平石先生】とあり、せっかくの有り難く的確な御指摘にも関わらずMAS(もちろん正しくはMS)とは何か全く分かっていないバカ学生ぶりがうかがえる(すみません)。また【反響あり。受けた】ともあり、根拠のない自信にあふれていたこともうかがえる。だが、確かに発表後に多くの方から声をかけていただき、とても嬉しかった記憶はある。あとは、【花田さん、えぇ感じ】ともある(すみません)。とにかく、私にとって微生態の第一印象は「バカ学生にも暖かい。でもヌルくはない」、そして「何だか楽しくて格好良いヒトが多い、“えぇ感じ”」というものでした。この雰囲気、今でも変わらない良き伝統ではないでしょうか。このような学会を産み出し育ててこられた先輩方に頭が下がるばかりです。様々な学会がありますが、私には本学会がベストです。
私は幸運にも(?)修士1回生の頃から現在に至るまで、研究テーマがあまり変わっていません。今に至るまで深海底熱水活動域のような極限環境を主な研究対象とし、ほぼ毎年微生態で発表してきました。したがって、ずっと本学会に育てて頂いたようなものです。8年前に大学の教員になり、後進の育成が大きな職務となりました。5年ほど前まで就職氷河期などと言われていたのが嘘のように、優秀な学生の就職はあっという間に決まります。一方、今後コンピューターが進化し続ければ、実験デザインから論文執筆までAIやロボットが行う時代がくるとも言われます。研究費のやりくりには日々吐きそうで、論文のピアレビュー制度も崩壊寸前です。研究をとりまく変化、それも暗い未来を挙げればキリがなさそうですが、本学会は今後どのように進化していくでしょうか。バカな学生がいなくなる気配はないので、少しでも暖かく“えぇ感じ”であり続けられるよう尽力できればと思います。
この受賞について、家族は「まだ奨励される側やったん?」と笑っていました。年齢的にも、実績的にも、選考委員の先生方の温情が働いたことは間違いありません。とはいえ、褒められるのは嬉しいものだと久々に思い出しました。優秀な学生を育てても、どんな論文を書いても、研究費を獲得しても、反響など想像もできない日々です。少なからず励みになりました。ですが、賞を薬にするか毒にするかは自分次第。今後はこの表彰に恥じぬよう、なお一層精励し新たな自分を形成する闘いの契機にしたいと思います。今後もご助力ならびにご教導を賜りますよう、くれぐれも宜しくお願い申し上げます。