微生物生態学会 31巻1号 ハイライト
リサーチ最前線
「私を地底に連れてって」陸域地下圏の微生物研究への招待 清水 了,上野 晃生
陸域地下圏フィールドの多くで地層中のメタンは微生物起源であることが同位体分析の結果からわかっている。著者らは微生物は岩盤内の亀裂システムに偏在していると考えており,実際に亀裂が目視できない岩石からは微生物がほとんど培養されないし,DNA も従来の方法では抽出できない。微生物学的には,メタン生成微生物群の遺伝子も検出され,培養に成功した成果は既に論文にまとめられている。しかし,日本国内における陸域地下圏の微生物研究は研究者の絶対数が少ないため,まだまだ未開の分野といえる。著者らの研究フィールドである微生物起源のメタンが生成するメカニズムと関連するトピックスをいくつか紹介したい。
単一細菌ゲノムデータのクオリティコントロール 丸山 徹,竹山 春子
MDA (Multiple Displacement Amplification)やMALBAC (Multiple Annealing and Looping Based Amplification Cycles)といった全ゲノム増幅技術の普及に伴い,単一細菌からのゲノム解読が一般化しつつある。近年では,この技術を利用して,培養の困難さが原因となりゲノム情報が全く得られていない系統群のゲノム解析を試みた事例が多数報告されている。本稿では,著者らが提唱した,新規性の高い種を解析対象とする場合にも適用可能なクオリティコントロール法について概説している。
扉を拓く – 活躍する若手
米・マサチューセッツ工科大学への留学,研究環境の効率性について感じたこと 佐々 文洋(筑波大学)
微生物を細胞レベルで分離・検出・解析する技術には,小さなデバイスを利用する手法があります。今回は,そのような微小なデバイスの研究を専門としながら,微生物の研究もされている,筑波大学の佐々文洋博士にお話を伺いました。
嫌気性アンモニウム酸化細菌と共に~これまでの研究生活を振り返って~ 押木 守(長岡高等専門学校)
廃水処理での窒素代謝に大きく寄与する嫌気性アンモニウム酸化(anaerobic ammonium oxidation; anammox)細菌の生理生態について,学母体学会は土木学会,本職は微生物を用いた廃水処理技術の開発をしていらっしゃる長岡高専の押木 守博士にお話を伺いました。
鉄に魅せられて~米デラウェア大学への留学体験記~ 加藤 真悟(海洋研究開発機構)
同じ微生物学・微生物生態学でも,地上と地下,土と水で大きく世界が変わります。今回は,深い海の底に生息する微生物を研究されている,海洋研究開発機構の加藤真悟博士にお話を伺いました。