2016年日本微生物生態学会奨励賞・授賞理由(丸山史人氏)
丸山氏は、大阪大学大学院薬学研究科博士後期課程を修了(薬学博士取得)した後、大阪大学大学院薬学研究科特別研究員、鳥取大学農学部プロジェクト研究員、東京大学医科学研究科特任研究員、東京工業大学大学院生命理工学研究科助教、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科准教授を経て現職に至っている。このように、丸山氏はこれまで薬学、農学、理学、医学、歯学の幅広い分野の研究室に所属するなかで、多面的見地からの微生物生態学の研究を展開してきた。すなわち、自然環境中の細菌群集の遺伝子伝播、病原細菌のゲノム構造と遺伝子発現、環境微生物群集のメタゲノムからみた機能と遺伝子動態、環境微生物アンプリコン解析における技法の改善、ヒト微生物環境の恒常性維持と破綻機構などの課題について積極的に取り組み、優れた研究業績を残している。これらのなかで、微生物生態学では常識である「環境微生物の大部分は培養が困難」という概念を先駆的に医学細菌学に取り入れ、歯周病に関連する微生物生態研究に大きな成果を上げたことは特筆すべきことである。歯周病環境では、”red complex”とよばれるジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)を含む3種の細菌が常在しているが、その共存理由は明らかでなかった。丸山氏は、歯周病に関わる細菌種の比較ゲノム解析やマイクロバイオーム解析を行ない、これらの情報と臨床メタデータとの重相関分析を通じて、ゲノム構造、CRISPRを含む防御因子、遺伝子変異率の進化戦略などが種によって異なることを見いだし、3種が共存することではじめて機能相補されることを明らかにした(ISME J. 9:629 [2015])。また、インプラント周囲炎においては”red complex”とは異なり、Prevotella nigrescensがその進行に重要な役割を果たしていることを明らかにした(Sci. Rep. 4:6602 [2014])。これらの研究成果は、難治性複合感染症治療法の開発に向けた基盤ともなりえる重要な情報であり、医科微生物生態学という新たな分野を開花させるものである。
学会関連活動としては、M&E誌associate editorを務めているほか、本学会と日本細菌学会総会のシンポジウム調整委員として共催シンポジウム企画に貢献し、細菌学若手コロッセウムの世話人として本学会の学生会員に発表の場を提供している。また、文部科学省のスーパーグローバルハイスクール運営指導員として高校生の理系教育についても力を注いでいる。さらには、ラ・フロンテラ大学(チリ)の客員教授として、国際的な教育研究にも貢献している。
以上のような微生物生態学への学術的貢献、学会への貢献、研究者としての将来性を総合的に考慮し、選考委員は全会一致で丸山史人氏を第二回(2016年度)日本微生物生態学会奨励賞受賞者に相応しいという結論に至った。