2016年日本微生物生態学会奨励賞・授賞理由(菊池義智氏)
菊池氏は、茨城大学大学院理工学研究科博士後期課程を修了(理学博士取得)した後、日本学術振興会特別研究員(産業技術綜合研究所)、米国コネチカット州立大学留学、産業技術総合研究所(産総研)博士研究員を経て、現職に至っている。特別研究員時代から、一貫して農作物の害虫における共生微生物を対象として、とくに宿主内での共生微生物のはたらきや内部共生系構築のメカニズムに関する精力的かつ先鋭的な研究を行なってきた。最近では、土壌微生物群集と昆虫内部共生系の関係についても研究を広げており、まさに微生物生態学と昆虫学との融合を図るような研究を展開している。カメムシを含む農業害虫昆虫の腸管内に微生物が生息することは20世紀初頭から確認されていたが、本格的な微生物学的研究が実施されるようになったのは同世紀後半からであり、長年散在的・萌芽的研究段階にあった。菊池氏は、この分野に最新の分子技法を駆使した研究アプローチを取り入れ、カメムシにおける共生細菌の獲得機構、カメムシ類に共生するウォルバキア(Wolbachia)属細菌やバークホルデリア(Burkholderia)属細菌の生息と普遍性、ツノカメムシ類と腸内共生細菌における宿主との共進化とゲノム縮小進化などに関する発見・解明を次々と行なってきた。特筆すべき成果は、共生細菌がその宿主であるカメムシに農薬抵抗性を賦与するという現象の発見であり(PNAS 109:8618 [2012])、直近では、カメムシ類が餌とともに取り込まれた雑多な細菌の中から特定の共生細菌だけを選別して共生器官に取り込むことを明らかにしている(PNAS 112: E5179 [2015])。これは、カメムシ類が共通して持つ共生細菌獲得に関わる特異な仕組みを初めて明らかにした共生の進化を考える上で重要な研究成果であり、日本微生物生態学会のホームページ上においても学会員による注目論文の一つとして紹介された。また、その優れた研究業績は国内外のメディアにおいても大きく取り上げられており、平成25年度の文部科学大臣表彰若手科学者賞の授与にも繋がっている。
学会関連では、日本微生物生態学会のほか、日本応用動物昆虫学会、日本進化学会などの会員として活発な活動を行っており、本学会関連のKJT Symposiumでのコンビーナーとしての実績も残している。また、産総研の主任研究員という傍ら、北海道大学大学院農学院応用生物科学専攻の客員准教授として精力的に学生の指導にもあたっている。
以上のような微生物生態学への学術的貢献、学会への貢献、研究者としての将来性を総合的に考慮し、選考委員は全会一致で菊池義智氏を第二回(2016年度)日本微生物生態学会奨励賞受賞者に相応しいという結論に至った。