2015年微生物生態学会奨励賞:受賞者の声(吉澤晋氏)
光と微生物の関係に魅せられて
吉澤 晋
はじめに、共同研究者および支援・アドバイス・叱咤激励してくださった数多くの方々に厚く御礼申し上げます<(_ _)>。
私が初めて微生物生態学会に参加したのは22回大会(2006年)で、博士課程の1年生の時だ。修士課程までは、ナノ、ピコ秒レベルの分光測定を得意とする物理化学研究室に所属していたため、微生態の定番手法であるDGGE、FISH、16S rRNAクローンニング法でさえ、その斬新さに衝撃を受けたのを鮮明に記憶している。分子生物学的手法を用いた研究発表に多くの人が目を輝かせていた時代ではあったが、私の研究テーマは「発光細菌の“培養株”が放つ光の色の多様性を明らかにする(DNAを見ても光の色は分からない)」という夏休みの自由研究の延長のような内容であった。しかしながら、幼少の頃から光と色に興味があり、高校在学中は絵を描くことに明け暮れ、高校卒業後3年間は大学にも行かず自称絵描きをし、学部、修士課程では発光細菌の蛍光タンパク質の分光法を用いた解析、博士課程からは自ら分離した発光細菌の発光色を片っ端から調べるという研究を行うことができ、分子生物学的手法を習得できないという一抹の不安を抱えながらも、光と色に囲まれた研究生活を大いに楽しむことができた。闇雲に発光色を測定した理由であるが、発光細菌は青色か黄色を放つ種類しか知られておらず、赤色や緑色に光る発光細菌が見つかっていないのはサンプル数が足りないだけだと信じていたからだ。しかしながら、世界中の様々な海域から分離した1000株以上の発光を測定した結果、いわゆる青色の範疇に入る発光色しか確認することができなかった。ルシフェラーゼのアミノ酸に一つ変異を加えるだけで発光色が劇的に変化する事例が知られていただけに、青色にしか光らない発光細菌のストックを山のように抱え呆然とした。ただ、それと同時に青い発光色にこそ発光の生態学的意義が隠されていると考えるきっかけになったことも事実であり、微生物が生きる“多様な色を許さない秩序整然とした世界”を垣間見たことで、ますます光と微生物の関係への興味が深まった。学位取得後は、微生物の新しい光ネエルギー機構であるロドプシンの研究を開始し、素晴らしい共同研究先や数々のラッキーに恵まれ成果が出つつある段階である。
自らの研究内容を振り返ってみると、光と微生物の関係への興味、またバックグランドが物理化学ということもあり、微生物生態の定番手法にこだわることなく研究テーマを考えてきたのが一番のオリジナリティーだと思うが、それに気がついたのはつい最近である。微生物生態の研究は、生態学そのものが面白いのはもちろんのこと、他分野にも大きなインパクトを与えるポテンシャルを持った分野である。今後はさらに、微生物生態学の成果が他分野研究を発展させる原動力となるような学際研究を行いたいと考えている。若い学生には、ラボ内で実施可能な手法を基に研究テーマを考えるのではなく、微生物や研究に興味を持つ“きっかけになった思い”を基盤としてテーマを決めて欲しいと思っている。