日本微生物生態学会 2023年 各賞受賞者のご報告
平素よりお世話になっております。日本微生物生態学会事務局です。
2023年第1回評議員会にて、第1回日本微生物生態学会学会賞、第9回日本微生物生態学会奨励賞、ならびに第1回日本微生物生態学会若手賞の選考結果およびその理由についての報告があり、審議の結果、全会一致で承認されましたのでご報告いたします。
第1回日本微生物生態学会学会賞
【受賞者】
南澤 究(東北大学大学院生命科学研究科生態発生適応科学専攻)
【受賞内容】
根粒菌やエンドファイトを主な対象とした微生物と宿主植物との共生機構ならびに共生を通じた窒素やメタン等の物質循環機構解明
【受賞理由】
学会賞受賞候補者として推薦された南澤 究氏は、①根粒菌ゲノムの進化と共生、②根圏からの温室効果ガスN2O の発生機構とその削減、③イネ科植物の窒素固定エンドファイト、の研究を推進し、卓越した研究成果をあげてきており、これらの研究テーマを含めた論文総数は195 編にのぼっている。また、本学会が主導する学会誌 “Microbes and Environments”(M&E 誌)に掲載された原著論文は52 編、総説2 編という高い貢献度であり、そのなかの原著論文1 編は、論文賞を受賞している。
南澤氏は、M&E 誌の編集委員を10 年以上も務め、2007~2010 年には編集委員長という重責を担い、その間にM&E 誌にimpact factor が付与され、M&E 誌が国際的なジャーナルになった点は特筆すべき貢献である。さらに、本学会の事務局代表幹事(2001~2002 年)及び学会長(2013~2016 年)として、15 年以上にわたって、本学会の運営と発展に大きく貢献してきたことは、本学会の多くの会員が認めるものと言える。
以上の理由より、南澤氏は、学会賞の選考観点である、微生物生態学分野における顕著な学術的業績および本学会の発展・運営への貢献度,および今後の微生物生態学分野のさらなる発展に向けたリーダーシップへの期待度の全てにおいて、高く評価できると判定し、学会賞受賞候補者として選定した。
第1回学会賞選考委員会
委員長 太田 寛行
委員 福井 学、渡邉 一哉
第9回日本微生物生態学会奨励賞
【受賞者】
堀 知行(国立研究開発法人産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域環境創生研究部門)
【受賞内容】
自然・工学的環境における微生物コミュニティの理解と利用
【受賞理由】
堀 知行氏は、水処理槽や土壌・堆積物等の様々な環境に形成される微生物生態系を研究対象とし、その中に存在する微生物の構成、存在量、空間分布、生理的役割、などを理解することで、微生物生態系の機能の理解を目指した研究を行ってきている。特筆すべきは、ブラックボックスとして扱われてきた微生物生態系を特徴づけるため、多様な分子生態学的手法を駆使してきた点であり、分子フィンガープリント法、定量PCR、FISH などの様々手法を駆使するとともに、Stable Isotope Probing (SIP)の技術進展に大きく貢献している。13C-酢酸を用いて鉄還元微生物の直接的同定を可能にした成果、SIPを次世代シーケンサー解析と組み合わせて高感度化した成果などは、微生物生態学における顕著な業績と認めることができる。さらに、次世代シーケンサー解析をmRNA 解析や共焦点反射顕微鏡観察と組み合わせることで、水処理槽における稀少微生物の重要性を明らかにしたことも高く評価できる。このような技術的進歩は、今後の微生物生態学の発展にも資するもので、堀氏の今後の研究にも大きな期待が寄せられる。
堀氏の研究成果は査読付き英文誌などに原著論文105 報として発表されており、また数多くの総説や招待講演にも表されるように、極めて高い研究業績を挙げてきている。これらの中にはM&E誌と日本微生物生態学会誌に報告された計10 報の論文があり、国内における微生物生態学の活性化にも大きく貢献している。さらに、日本微生物生態学会の庶務幹事や評議員等を務めてきており、学会活動にも大きく貢献している。以上から、同氏を「学術的に優れた微生物生態学研究に基づく顕著な業績があり、正会員として本学会の発展に貢献し、今後一層の活躍が期待できる研究者」と判断し、第9回日本微生物生態学会奨励賞受賞候補者に推薦する。
第9回日本微生物生態学会奨励賞選考委員会
委員長 渡邉 一哉
委員 青井 議輝、鈴木 志野、野村 暢彦、二又 裕之
第1回日本微生物生態学会若手賞
(50音順)
本委員会では、今回応募があった3名について、いずれの方も上記の基準を十分に満たす若手研究者と評価したので、三氏を若手賞に推薦する。
【受賞者】
黒田 恭平(国立研究開発法人産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門)
【受賞内容】
微生物の生態と代謝機能から切り拓く生物学的廃水処理技術の新展開
【受賞理由】
黒田氏は、難分解の産業廃水等を安定的に処理できる新しい生物処理技術を創出することを目指し、国内外の様々な廃水処理プロセスを対象として、分子生物学的解析、オミクス解析、培養法、メタゲノム解析により、処理槽内の微生物の代謝機能や生態学的役割を明らかにしてきた。34歳という年齢でありながらすでに39報の論文などを発表しており、それらの中にはM&E誌に発表された7報の論文が含まれる。微生物生態学における一大分野となっている廃水処理に関与する微生物生態系を代表する研究者として頭角を現してきており、この分野を先導する研究者になっていくことは間違いないと期待される。
【受賞者】
中島 悠 (海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門)
【受賞内容】
新規微⽣物型ロドプシンの機能解析および⽣理・⽣態学的研究
【受賞理由】
中島氏は、環境中に⽣息する多種多様な微生物に存在するロドプシン様タンパク質の多様性と機能、およびその進化を解明することをテーマとして研究を行ってきた。近年大量に蓄積されつつあるゲノム情報のデータベース中から新規ロドプシン様たんぱく質遺伝子を探索し、それらの系統解析および機能解析、さらにそれらをもつ微生物の培養実験や⽐較ゲノム解析を通して、ロドプシン様タンパク質の生態学的役割や進化に迫る独自性が高い研究を展開してきた。これらの研究の成果は、PNAS誌、M&E誌をはじめとする国際誌に発表され、高い評価を得ている。特に、2018 年に M&E誌に発表された論文は「2018 Microbes and Environments優秀論文賞」に選出されるとともにいくつかの学会でポスター賞等を受賞し、関連分野の研究者に広く知られるものになっている。以上中島氏は、独自性が高い研究を推進することで微生物生態学分野に新たな領域を打ち立てようとしており、今後の研究進展が関連分野の発展に大きく寄与する可能性がある若手研究者と評価した。
【受賞者】
平岡 聡史(海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 生命理工学センター)
【受賞内容】
環境微生物の理解に向けたバイオインフォマティクス研究
【受賞理由】
平岡氏は、環境中の微生物生態の理解を目指し、分離株のゲノム解析、メタゲノム解析、16S rRNAアンプリコン配列解析など、ゲノム配列情報に基づく幅広いバイオンフォマティクス研究に主体的に取り組んでいる。特に、PacBioシーケンサを活用したメタゲノム解析において、培養に依存することなく生態系内の微生物のエピゲノムを観測する「メタエピゲノム解析」を考案し、バイオンフォマティクスを駆使した新しい解析技術を世界に先駆けて確立した。この成果はNature communications誌に発表されているが、微生物学におけるメタエピゲノミクスという新しい研究分野を打ち立て、今後幅広く微生物生態系の解析に利用されるようになると期待される特筆すべきものである。平岡氏は研究成果を微生物生態学会の大会を中心に発表してきており、第32回大会 (沖縄) では口頭発表がBest Presenter Awardとして表彰されている。以上、本学会を中心に活動しながら世界に先駆け打ち立てたメタエピゲノミクスを基盤に、平岡氏は、微生物生態学の今後の発展に大きく貢献する研究者となることは間違いないと期待される。
以上、本選考委員会は、将来有望な3名の若手研究者を若手賞に推薦できることを光栄に思う。
第1回日本微生物生態学会若手賞選考委員会
委員長 渡邉 一哉
委員 青井 議輝、鈴木 志野、野村 暢彦、二又 裕之
2023年11月27日から開催されます浜松大会にて受賞者の皆様によるご講演が予定されておりますので、大会参加者の皆様におかれましてはご参集のほどよろしくお願い申し上げます。また、受賞者の皆様によります「受賞者の声」につきましても、後日、和文誌ならびに学会ウェブサイトにて掲載する予定です。
今年も各賞への積極的なご応募をいただき誠にありがとうございました。また、選考委員の皆様方におかれましては公正な選考をいただきありがとうございました。来年の公募の際も、皆様からのご応募をお待ちしております。
日本微生物生態学会事務局