2022年日本微生物生態学会奨励賞 加藤 創一郎氏
受賞内容:「微生物の多様なエネルギー代謝の生態学的研究」
加藤氏は、これまで嫌気環境における微生物の多様なエネルギー代謝に着目し、新規代謝機構を有する微生物の分離培養、その代謝機構や生態的意義の解明、またそれら代謝を利用した応用研究に精力的に取り組み、大きな成果を挙げてきた。特に注目される点としては、1)安定なセルロース分解微生物群集からすべての優占微生物種を分離培養し、4種類以上の微生物が安定に共存しつつもオリジナル群集と遜色ない機能(セルロース分解能)を発揮する、微生物群集の再構成に成功した点、2)嫌気性プロピオン酸酸化細菌とメタン生成古細菌の共生系を対象として、各種培養実験やゲノミクス解析、マイクロアレイ解析を組み合わせることで、鞭毛の構成タンパクが共生パートナーの認識と確保、情報伝達を担うという全く新しい概念を提唱し、国内外から大きく注目された点、3)電流生成細菌を対象とした研究を通し、酸化鉄などの導電性鉱物粒子が自然界における電極・電線として機能することを見出すとともに、導電性鉱物を流れる電流によっても微生物間共生関係が成立する「電気共生」という概念を、世界に先駆けて提唱した点、の3点である。このような新規性・独創性の高い研究を発表した論文のうち、15報がすでに被引用回数100を超えている点も高く評価できる。また、加藤氏は大会での積極的なシンポジウム企画、さらに若手会幹事や評議員として本学会の運営にも多大な貢献があるのみならず、Microbes and Environments誌にも計11報の論文を報告している。
以上、微生物生態学への学術的インパクトの強さ、学会への貢献、研究者としての将来性を総合的に判断し、また、今後も本学会への発展に尽力されることを期待し、選考委員会は全会一致で加藤創一郎氏を第8回(2022年度)日本微生物生態学会奨励賞受賞者に相応しいと判断した。
受賞者の声
微生物生態学会とともに育った私
加藤創一
この度は日本微生物生態学会奨励賞という栄誉ある賞をいただき,大変光栄に存じます。推薦いただきました「島根が誇る微生物ハンター」こと玉木秀幸博士,推薦者としては名前が出ておりませんが陰から後押しを頂いた「ポンチ絵の魔術師」こと成廣隆博士(ともに産業技術総合研究所),ご多用の中選考にあたっていただいた先生方,ならびにこれまでの研究活動を支えていただいたすべての皆様に,
この場をお借りして改めて感謝申し上げます。
思い起こすと,私が初めて参加した学会は,まさにこの微生物生態学会でした。忘れもしないあの2001 年 11 月,まだサイエンスへの希望と将来への不安の板挟みにあった修士 1 年の私は,当時研究を指導いただいていた春田伸博士(現・東京都立大学教授)に誑かされ,静岡大学で開催された微生物生態学会第 17 回大会に参加しました。自分の発表の詳細は記憶にありませんが,記録によるとセルロース分解微生物群集の発表をしたようです。頑張って話す内容を暗記して,想定質問対応とかも必死に考えていたような記憶がかすかにあります,そんな時期もあったんですね。誰だかに「おもろい人がいるから見といたほうがいいよ」と紹介され,高井研博士(海洋研究開発機構)の発表を聞きに行ったことはなぜか覚えています。正直内容は全く覚えていませんが(あんまり微生物関係ない話だったような),「どや,この研究おもろいやろ,どや」という強い圧を感じた記憶があります。今の私は,研究の話をして誰かに面白いねと言ってほしい,というのをほぼ唯一のモチベーションとして生きています。その根源は微生物生態学会での体験にあったと言っても
過言ではないような気がしないでもありません。
私はこれまで賞というものとはあまり縁がない人生を送ってきました。その私にとって人に自慢できる賞を初めて頂いたのも,微生物生態学会でした。あれはたしか 2014 年の春ごろ,当時たしか学会長だった鎌形洋一博士(産業技術総合研究所)と二人,北海道・千歳の某山中で山菜を乱獲している最中,「そういえば加藤君,M&E の論文賞取ってたよ」と他人事のように(まあ他人事なんですが)言われたことが昨日のことのように思い出されます。その年の浜松合同大会での受賞講演にて,当時自身の鉄板ネタだったピ○チュウのスライドでドンずべりしたことも昨日のことのように思い出されます。あとから「あれ超おもろかったよ」と慰めてくれた方々には感謝していますが,それならその場で笑ってくれよと,今でも根に持っています。それはさておき,論文賞に続き奨励賞まで頂き,まさに私の研究人生は微生物生態学会あってのものと言わざるを得ない気がしないこともないです。
微生物生態学会は,私が修士の学生だった頃から,ほぼ無欠席で参加し続けている唯一の学会です。約20 年前と比べ,本学会は会員や大会参加者も(おそらく)激増しており,また近年では毎年のように学会関係者が世界に誇れる優れた研究成果を発信しており,名実ともに大きく成長した,し続けている学会であると思います。私がそこに果たした役割は眇眇たるものかもしれませんが,私の中で微生物生態学会はこの 20 年,共に成長してきた仲間のように勝手に感じています。また毎年のように大会に参加していると,それぞれの大会の思い出を振り返ることで,自身の研究の遷移をも振り返ることができます。札幌大会で行った温泉,広島大会で食べた美酒鍋,鹿児島大会で行った桜島,浜松大会で食べた高いうなぎ,横須賀大会で行った怪しげなバー,ここですべてを書き尽くすことはできませんが,いずれも昨日のことのように思い起こされます。ともあれ,今後も微生物生態学会とそこに集うゆかいな研究者たちと切磋琢磨しながら,面白いと言ってもらえる研究をしていければと思います。以上簡単ではありますが,「昔強かったプロレスラー」こと加藤
創一郎より,受賞の御礼の言葉に代えさせていただきます。