日本微生物生態学会 2026年各賞受賞者のご報告
平素よりお世話になっております。日本微生物生態学会事務局です。
2026年第1回評議員会にて、第4回日本微生物生態学会学会賞、第12回日本微生物生態学会奨励賞、ならびに第4回日本微生物生態学会若手賞の選考結果およびその理由についての報告があり、審議の結果、全会一致で承認されましたのでご報告いたします。
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第4回日本微生物生態学会 学会賞
【受賞者】
岡部 聡(北海道大学 大学院工学研究院 環境創生工学部門)
【受賞理由】
岡部氏は「複合系微生物生態系の構造と機能解析および水環境工学への応用」の優れた研究を推進した。従来の培養的手法では限界があった生物学的廃水処理プロセスの解明のために、各種マイクロセンサー・MAR-FISH・RNA-SIP・メタゲノム・トランスクリプトーム・プロテオームなどの多様な手法を統合し、複合微生物群集の構造と微生物反応の空間的・時間的ダイナミクスを解明し、廃水処理微生物生態系の理解を大きく前進させた。具体的には、(i)都市下水バイオフィルムにおけるアンモニア酸化細菌と亜硝酸酸化細菌の空間分布の解明、(ii)下水管のコンクリート腐食を進行させる硫黄酸化細菌の遷移の解明、(iii)アナモックス細菌の高純度集積培養系による生理生態・動力学的特性の体系的解明である。いずれの研究も、微生物が駆動する物質循環の基礎科学に貢献し、さらに廃水処理微生物の社会実装にも貢献するダイナミックな研究を展開してきたと言える。
学会活動では、2021~2024年の日本微生物生態学会会長としての激務を担いながら、第35回日本微生物生態学会札幌大会(2022)実行委員長としてコロナ禍明けの対面大会を成功させ、続く大会開催の支援体制構築、日本微生物学連盟などの連携事業の推進に尽力した。MicrobesandEnvironments(M&E)誌の初期に副編集委員長(2005-2010)を務め、M&E誌公的評価前の本学会成果のアピール総説(Okabe2010.Agreatleapforwardinmicrobialecology)をはじめとして13編の論文をM&E誌に掲載した。さらに、国際微生物生態学会(ISME)の理事(2012-2016)、ISME/IWABioclusterAwardの選考委員(2012-2016)、ISMEJournalの主席編集委員(SeniorEditor)(2017-2022)を歴任し、本学会の国際連携を積極的に推進してきた。
以上の理由より、岡部氏は、学会賞の選考観点である、「微生物生態学分野における顕著な学術的業績および本学会の発展・運営への貢献度、および今後の微生物生態学分野のさらなる発展に向けたリーダーシップ」の全てにおいて高く評価でき、学会賞の受賞に相応しいと判断された。
第4回日本微生物生態学会学会賞選考委員会
委員長 本郷 裕一
委員 青井 義輝、緒方 博之、加藤 創一郎、野田 悟子
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第12回日本微生物生態学会奨励賞
【受賞者】
押木 守(北海道大学 大学院工学研究院 環境創生工学部門)
【受賞理由】
押木氏は、生物学的排水処理プロセスを中心として、環境中で機能する微生物群集の生態と代謝に関する研究を一貫して推進してきた。特に嫌気性アンモニウム酸化(anammox)細菌に関する研究では世界を先導する成果を挙げ、微生物生態学および環境微生物学の発展に顕著な貢献を果たしている。anammox細菌は地球規模の窒素循環において重要な役割を担う一方、その増殖速度の遅さや培養の難しさから、生理・生態に関する理解が十分に進んでいなかった。押木氏はこうした困難な研究対象に挑み、生理学、生化学、分子生態学的手法を融合した独創的な研究を展開することで、anammox細菌の代謝機構や環境適応戦略、生態学的特性を体系的に明らかにしてきた。これらの成果は、anammox細菌に対する理解を飛躍的に深化させただけでなく、窒素循環を担う微生物群の機能理解にも新たな知見をもたらした。排水処理技術の高度化や省エネルギー型窒素除去プロセスの発展にも大きな影響を与えており、基礎研究と環境工学を結び付ける優れた研究として高く評価されている。
また、Microbes and Environments 誌への継続的な研究成果の発信に加え、代表幹事や会計幹事として学会運営の中核を担うなど、本学会の発展にも大きく貢献してきた。大会運営や国際会議誘致活動にも積極的に携わり、本学会の国際化とプレゼンス向上にも寄与している。このように押木氏は、独創性と国際性に富む研究成果によって微生物生態学の発展に顕著な貢献を果たすとともに、本学会の発展と国際化にも大きく貢献してきた。
以上の理由により、奨励賞に相応しいと判断した。
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【受賞者】
片山 泰樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門)
【受賞理由】
片山氏は、「培養によってこそ生命現象の本質に迫ることができる」という確固たる信念のもと、主に地下環境を対象として難培養嫌気性微生物の分離培養研究を精力的に進めてきた。特に顕著な成果として、天然ガス田から単離した候補門OP9(Atribacterota門)に属する細菌株が、核様体を囲む細胞内膜様構造を有することを明らかにした発見(Nature Communications, 2020など)、さらに同じく天然ガス田から単離した候補門Marine Group A(Fidelibacterota門)に属する細菌株が、他種細菌が放出するペプチドグリカン断片に依存して細胞壁を合成するという新規生存戦略を持つことを明らかにした発見(Nature Microbiology, 2024など)が挙げられる。これらの研究は、分類階級「門」レベルの未培養細菌系統群を初めて培養可能にし、微生物の細胞構造や生理特性に関する従来の前提を覆す発見として、国際的にも高く評価されている。また本学会においても、会計幹事、若手会世話人、学会シンポジウムの企画などを通じて、学会運営に大きく貢献してきた。
以上の理由により、奨励賞に相応しいと判断した。
以上、本選考委員会は、上記2名の研究者を奨励賞に推薦する。
第12回日本微生物生態学会奨励賞選考委員会
委員長 本郷 裕一
委員 青井 義輝、緒方 博之、加藤 創一郎、野田 悟子
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第4回日本微生物生態学会若手賞
【受賞者】
汪 亜運 (産業技術総合研究所 モレキュラーバイオシステム研究部門)
【受賞理由】
汪亜運氏は、チャバネアオカメムシと大腸菌による人工共生進化実験を通じて、自由生活型細菌が相利共生体へと進化する分子機構の解明に取り組んでいる。これまでに、大腸菌のトリプトファン分解酵素遺伝子あるいはメチオニン合成経路リプレッサー遺伝子の欠損が、相利共生体化の直接の原因になり得ることを、大腸菌を用いた実験と、本来の共生体であるPantoea属細菌の網羅的ゲノム解析などで実証し、筆頭著者としてNature MicrobiologyとmBioに論文発表している。汪氏は、大学院生時は全く異なる応用微生物学的研究で3本の筆頭著者論文を発表しており、研究能力の高さと幅広さを証明している。本学会には2024年に入会したばかりだが、2025年度大会では、共生進化実験の続報で優秀ポスター賞を受賞し、また茨城県立自然博物館の微生物観察会では、2年連続でボランティアスタッフを務めている。このように、本学会の活動に積極的に参加しており、今後も更なる活躍が期待できる。以上の理由により、若手賞に相応しいと判断した。
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【受賞者】
Jackson Makoto TSUJI(基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門)
【受賞理由】
TSUJI氏は、40億年にわたる地球と生命の共進化が現在の地球環境と生物多様性を形作ってきたとの視点から、光合成の初期進化に関する研究に取り組んできた。特に、古代海洋との環境類似性を示すカナダ・ボリアルシールド湖に着目し、Chloroflexota門の新規光栄養細菌‘Candidatus Chlorohelix allophototropha’を発見した。同門の既知の嫌気性光合成細菌はいずれも光化学系IIを利用していたが、本細菌は光化学系Iを利用しており、光化学系IとIIの進化的関係を考える上で重要な発見である。また、古代の嫌気光合成と鉄代謝に関わる微生物生態系の理解にも新たな視点を与えた。TSUJI氏は、大学院生時に修得したメタゲノム解析技術と、日本で磨いた集積培養技術を融合させ、長期にわたる粘り強い努力の末に本発見に至った。これらの成果は、Nature(筆頭兼共同責任著者)およびThe ISME Journal (筆頭著者)に発表されている。TSUJI氏は、2021年の本学会入会以来、5回の口頭発表を行い、2025年には招待講演を行った。また、Multidisciplinary English Sessionのオーガナイザーや審査委員を務めるなど、学会に貢献してきた。研究代表者として科研費(基盤B)および発酵研助成も獲得しており、今後も更なる活躍が期待できる。以上の理由により、若手賞に相応しいと判断した。
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【受賞者】
長谷川 万純 (海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門)
【受賞理由】
長谷川氏は、微生物の光エネルギー受容・利用機能の理解をメインテーマとして研究を進めてきた。これまでに、シアノバクテリアAcaryochloris marinaの青色光強度を感知する新規な光センサーや、シアノバクテリア特異的な光受容タンパク質であるシアノロドプシンの機能解明に貢献してきた。これらの研究成果は、ロドプシンの機能や光吸収特性が、シアノバクテリアの進化や環境適応に重要な役割を果たしていることを明らかにするものとして、The ISME Journal (筆頭兼共同責任著者論文)をはじめ、Nature(共著)など複数のハイインパクトな国際誌に発表されている。本学会には2017年に入会し、以後、8回の口頭/ポスター発表を行い、2023年から若手会世話人を継続するなど、学会にも積極的に貢献している。研究代表者としてJSTさきがけや科研費(若手)、発酵研助成などの研究費を獲得しており、今後も、独創的な研究の推進と関連分野の発展を担う人材として、更なる活躍が期待できる。以上の理由により、若手賞に相応しいと判断した。
以上、本選考委員会は、上記3名の若手研究者を若手賞に推薦する。
第4回日本微生物生態学会若手賞選考委員会
委員長 本郷 裕一
委員 青井 義輝、緒方 博之、加藤 創一郎、野田 悟子
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2026年9月27日から開催されます高知大会にて受賞者の皆様によるご講演が予定されておりますので、大会参加者の皆様におかれましてはご参集のほどよろしくお願い申し上げます。また、受賞者の皆様によります「受賞者の声」につきましても、後日、和文誌ならびに学会ウェブサイトにて掲載する予定です。
今年も各賞への積極的なご応募をいただき誠にありがとうございました。また、選考委員の皆様方におかれましては公正な選考をいただきありがとうございました。来年の公募の際も、皆様からのご応募をお待ちしております。
日本微生物生態学会事務局










