札幌大会にて年会(ランチョンセミナー)を開催します【11/1(火)12:15~13:45】
「電気とバイオの新展開: 電気によって駆動する還元的エネルギー代謝系の発見と応用」
“New trends in Electromicrobiology: Discovery and application of reductive energy metabolisms driven by electricity”
近年、電気的な活性を持ち、微生物と鉱物、電極、あるいは異種微生物間で電子を授受できる微生物(電気化学活性微生物)が相次いで発見されてきています。これらの微生物は微生物燃料電池や微生物電気合成などの有用技術(微生物電気化学システム)に応用できる可能性があるほか、エネルギー代謝の起源を探求するうえでも興味深い研究対象となっています。本ランチョンセミナーでは当該分野において先駆的な研究を行っている2名の研究者(笠井拓哉先生・鈴木志野先生)にご講演いただき、最新の研究成果をご紹介いただく予定です。なお、本セミナーはランチョンセミナー形式で行い、先着70名に無料で昼食(おにぎり弁当またはサンドイッチ、ドリンク付き)をお配りします。
日時・場所:
11月1日(火)12:15-13:30 Room 107-108(対面のみ)
スケジュール:
12:00-12:15 ランチ配布(先着順)
12:15-12:20 趣旨説明(石井俊一)
12:20-12:30 国際電気微生物学会ISMET8の報告(高妻篤史)
12:30-13:00 「固体腐植物質を利用した微生物浄化・資源化反応の促進」(笠井拓哉、名古屋大学)
13:00-13:30 「超還元環境における微生物による電気駆動型炭素固定」(鈴木志野、宇宙航空研究開発機構)
講演概要:
1. 笠井拓哉先生「固体腐植物質を利用した微生物浄化・資源化反応の促進」
固体腐植物質(以下ヒューミン)とは、動植物の死骸やフンが化学的かつ生物学的に分解・重縮合された物質のうち、いかなるpHにも不溶な画分の総称であり、細胞外電子伝達物質として機能することが知られている。これまでに我々は、ヒューミンが微生物へ電子供給して鉄還元反応や脱窒反応、ペンタクロロフェノールの脱塩素反応などの還元的代謝系を活性化させることを見出している。さらに、ヒューミンは酸化還元電位が非常に低い(還元レベルが非常に高い)二酸化炭素から酢酸への還元反応および窒素ガスからアンモニアへの窒素固定反応を促進することが示されている。微生物電気化学システムを用いた二酸化炭素還元に関する研究では、水の電気分解で生じた水素を電子源として微生物に供給されることがほとんどであるが、ヒューミンを電子伝達物質として用いることで、水の電気分解が起こりにくい-510mV vs. Ag/AgClにおいて二酸化炭素から酢酸への還元反応が促進され、ヒューミン無し条件と比較して約10倍の酢酸生成速度と90%以上の電気効率を達成した。窒素固定反応に関する研究では、ヒューミンが分子系統学的に幅広い窒素固定細菌の窒素固定を活性化して、各微生物の窒素固定反応を194~916%促進した。さらに窒素固定反応の促進機構を解析したところ、ヒューミンによる電子供与だけでなく、窒素固定に必要なATPの合成量も増加させることが示された。
本講演では、ヒューミンの細胞外電子伝達能力とヒューミンを活用した資源化技術に関する研究を中心にお話しする。
2. 鈴木志野先生「超還元環境における微生物による電気駆動型炭素固定」
講演者は初期地球環境に近いとされる極限環境(pH 12の超還元環境)における微生物生態系とその代謝メカニズムを解明し、初期代謝の発生原理を解き明かすべく研究を展開している。本セミナーでは、講演者の最新の研究成果の中から、超還元環境下に生息するMethanocellales目の古細菌が、電気(細胞外から導電性タンパク質を介して供給される還元力)によってエネルギー代謝と炭素固定系を駆動している、という内容についてお話する。本研究成果で見いだされた非常に特徴的な代謝様式は、生命の起源およびその初期代謝の解明につながる可能性を秘めている。