2015年微生物生態学会研究奨励賞:受賞理由(石井聡氏)
石井聡氏
Assistant Professor Department of Soil, Water, and Climate,
and BioTechnology Institute, University of Minnesota
石井氏はアメリカミネソタ大学に博士課程の学生として滞在中、丹念なフィールドサンプリングを基礎にした研究、調査をもとに、大腸菌の環境中での動態についての研究をまとめ、博士号を取得した。この中で石井氏は大腸菌が土壌や藻類に付着することにより環境中で長期に生残あるいは増殖しうることを初めて証明し、大腸菌の分布が人間活動を反映したいわゆる糞便汚染指標菌として扱われていることに対し警鐘を鳴らした。学位取得後、東京大学に移ってから窒素循環に関する研究を開始し、シングルセル分離法、Stable Isotope Probing法、16S rRNA gene sequencing, 機能遺伝子解析、ゲノム解析などの最新の手法を駆使して、水田土壌における脱窒およびN2Oの還元過程について明らかにした。その後、北海道大学に移動して窒素代謝に関する研究を続け、排水処理系での脱窒、硝化、アナモックスに関わる研究に発展した。その一方で、学位論文の際に行った病原微生物関連の研究を再開し、マイクロ流体デバイスを用いて複数の病原細菌を検出・定量する技術を開発し、水界のリスクモニタリングへと応用した。これらの研究はEnvironmental Microbiology、ISME Journalなどの一流誌に掲載されるとともに、その実績によりアメリカ微生物学会出版会(ASM Press)からEnvironmental Pathogenに関する本の執筆、編集を依頼されている。
このように、石井氏はこれまでいくつかの異なる研究機関に身を置きながら窒素循環および病原菌の動態に関する基本的課題に対して最新の技術を駆使してその解析を行い、レベルの高い研究業績をコンスタントに発表してきた。これは同氏の卓抜な研究能力を示すとともに、今後の研究の発展も大きく期待できるところである。また、石井氏はMicrobes and Environments 編集委員あるいはKJT Symposiumでのconvenerとして、学会活動にも関わってきた。石井氏は現在アメリカ滞在中であるが、日本の若手研究者が積極的に世界で活躍していくことを期待する観点からも奨励賞に値すると考えられる。
こうした微生物生態学への科学的貢献、学会への貢献、研究者としての将来性を総合的に考慮し、石井氏に奨励賞を送る授与することが相応しいとの結論を得た。