日本微生物生態学会2024年各賞受賞者のご報告
平素よりお世話になっております。日本微生物生態学会事務局です。
2024年第1回評議員会にて、第10回日本微生物生態学会奨励賞、ならびに第2回日本微生物生態学会若手賞の選考結果およびその理由についての報告があり、審議の結果、全会一致で承認されましたのでご報告いたします。
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第10回日本微生物生態学会奨励賞
【受賞者】
浦山俊一(筑波大学 生命環境系)
【受賞内容】
微生物に潜むRNAウイルスの生態学的研究
【受賞理由】
浦山氏は、微生物に共存(共生)する二本鎖RNAウイルスの多様性に関する研究を推進してきた。浦山氏は、二本鎖RNAウイルスを捉える独自の手法を開発し、同手法を用い、各種環境における二本鎖RNAウイルスの多様性などを明らかにして報告してきたが、特筆すべきは、本手法を高温酸性の極限環境に適用することで、少なくとも門レベルで新規なRNAウイルス系統を発見することに成功した点が挙げられる。Hot spring RNA virus(HsRV)と名付けられたこのウイルスの発見により、これまでRNA ウイルスが見つかっていなかった70-80℃の高温環境にもRNA ウイルスが生息すること、RNA ウイルスを大別する既存の2つの界とは別の第3のRNAウイルス界が存在する可能性があることなどが示された。これら環境ウイルス学の常識を覆す成果は、Nature Microbiology誌にて報告された。浦山氏は、これまで一貫して二本鎖RNAウイルスの研究を行ってきているが、同氏のあくなき探求心から生み出される独自性の高い研究を通して今後も当該分野を大きく発展させるだろう。
浦山氏はこれまで、数多くの論文発表・招待講演を行うなどし、極めて高い研究業績を挙げてきているが、これらの中にはMicrobes and Environments(論文賞受賞を含む)や微生物生態学会和文誌への12報の論文発表が含まれており、国内における雑誌への発表の活性化にも大きく貢献している。さらに、日本微生物生態学会においては、年次大会におけるシンポジウムの企画、環境ウイルス研究部会の共同代表などを務め、学会活動にも大きく貢献している。以上から、同氏を「学術的に優れた微生物生態学研究に基づく顕著な業績があり、正会員として本学会の発展に貢献し、今後一層の活躍が期待できる研究者」と判断し、第10回日本微生物生態学会奨励賞受賞候補者に推薦する。
【受賞者】
田代陽介(静岡大学学術院工学領域化学バイオ工学系列)
【受賞内容】
生体微粒子を介した微生物間相互作用の理解とナノバイオテクノロジー展開
【受賞理由】
田代氏は、細胞外小胞を介した微生物の動態・相互作用の全容理解を目指し、その生物学的機能ならびに形成機構の解明に関する研究を推進してきた。微生物が細胞外に産生する膜小胞は、微生物間ならびに微生物-宿主間相互作用に重要な役割を担っている。田代氏は、いち早く細胞外膜小胞に着目し、細胞間相互作用における膜小胞の機能形成機構の解明や、膜小胞の形状多様性とその機能解明といった基礎的研究を推進してきた。さらに、それらの知見を活かし、複合微生物系の制御、ヒト-微生物相互作用が司る健康・疾病の制御さらには核酸・医薬品運搬媒体といった応用を志向した研究も展開している。田代氏は、国内外問わず多数の総説の出版や招待講演を行うなど、すでに当該分野をリードする研究者である。また、田代氏は、JSTさきがけ「生体における微粒子の機能と制御」領域の研究にも採択されており、異分野との知の融合によるさらなる研究の飛躍が期待される。
田代氏は、日本微生物生態学会の年次大会において多数のシンポジウムを企画した他、若手会幹事代表、第一回環境微生物系合同大会(浜松)実行委員、和文誌編集委員、2023 年 第36 回微生物生態学会/第13 回アジア微生物生態学会合同大会(浜松)実行委員、和文誌編集委員長を歴任しており、日本微生物生態学会への献身的な貢献は顕著である。さらに、田代氏の数々の指導学生が日本微生物生態学会大会ならびにアジア微生物生態学会大会においても受賞に至るなど、次世代の育成にも大きな貢献を果たしている。以上から、同氏を「学術的に優れた微生物生態学研究に基づく顕著な業績があり、正会員として本学会の発展に貢献し、今後一層の活躍が期待できる研究者」と判断し、第10回日本微生物生態学会奨励賞受賞候補者に推薦する。
第10回日本微生物生態学会奨励賞選考委員会
委員長 鈴木 志野
委員 天知 誠吾、大塚 重人、福井 学、渡邉 一哉
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第2回日本微生物生態学会若手賞
【受賞者】
⼤林 翼(国⽴研究開発法⼈ 農業・⾷品産業技術総合研究機構 農業環境研究部⾨)
【受賞内容】
カメムシ腸内細菌の共⽣メカニズムおよび農地から発⽣する温室効果ガス(N2O)の排出削減に関する研究
【受賞理由】
大林氏は、2011年からダイズの重要害⾍であるホソヘリカメムシとその共生菌であるBurkholderia insecticolaの研究を行っており、一連の研究で、顕著な成果を創出している。また、2022年より農地から発⽣する温室効果ガスN2Oの排出削減に関する研究にも着手し、着実に成果をあげつつある。ダイズの重要害⾍であるホソヘリカメムシの中腸後⽅の盲のう部にBurkholderia insecticolaが保持されるか否かで、カメムシの体サイズや産卵数が変わることから、B. insecticola がカメムシの⽣存に重要な役割を果たしていることが知られていた。そこで、大林氏は、ホソヘリカメムシが幼虫の時に、多種多様な微生物が存在する土壌からB. insecticolaのみを獲得する仕組みを追求した。その結果、この特異的な選択には、べん毛を介した運動性が重要であることを発見し、PNASに発表した。しかし、鞭毛をもつ微生物は土壌中に多数いる。よって、さらなる特異的選択性を司る分子機構を明らかにするため、渡仏後、RNA-seq、Tn-seqなどを用いたスクリーニングを行い、共生初期・後期では、必要とするメカニズムが違うことなどを明らかにするなどし、昆虫―共生微生物の選択的認識の理解を深化させている。また、現在、土壌から放出されるN2Oの生成に関与するヒドロキシルアミン酸化還元酵素(HAO)の研究に着手し、着実に成果を上げている。以上のことから、大林氏は、優れた研究能力、行動性、国際性を有した若手研究者であり、今後の研究進展が関連分野の発展に大きく寄与する可能性がある若手研究者と評価した。
【受賞者】
金城 幸宏(沖縄国際大学 経済学部)
【受賞内容】
共生細菌のゲノム縮小進化に関する研究
【受賞理由】
金城氏は、ゴキブリ目昆虫の細胞内共生細菌Blattabacterium を主な対象とし、ゲノム縮小進化の研究を推進している。共生細菌のゲノム縮小進化を駆動する原理に焦点を当て、遺伝的浮動よりも突然変異率の増加がゲノム縮小進化に重要なことを初めて明らかにし、数理的観点からこれまで注目されてこなかったゲノム縮小の進化動態に関し、数理モデルを駆使して解明した。また、宿主食性の変化と腸内共生系の獲得などの宿主生態が共生細菌のゲノム進化に与える影響も明らかにした。これらの成果は、共生細菌と宿主の相互作用や進化過程、生態系での役割の理解に重要な示唆に富み、多数の論文発表をして当該分野に大きな影響を与えている。金城氏は、ゲノム情報解析、数理モデル、フィールドワーク、Wet実験を通し、ゲノム縮小進化に関する理論的研究を推進している。生物学は法則にたどり着くところまで学問が成熟していないと言われ、多様な生命現象の解明に焦点を当てた研究が多くなされる中、その背景にある理論まで果敢に踏み込む研究を推進する点は、特に優れており、今後の研究進展が関連分野の発展に大きく寄与する可能性がある若手研究者と評価した。また、日本微生物生態学会におけるキャリアパス・ダイバーシティー委員会などの活動にも積極的に参加し、本学会の発展に寄与している点も評価した。
【受賞者】
Masaru K. Nobu(国⽴研究開発法⼈ 海洋研究開発機構・超先鋭研究開発部門)
【受賞内容】
⽣命の樹解読を通じた⽣物の本質の解明
【受賞理由】
Nobu氏は、生命の起源、バクテリア・アーキアの分岐、真核生物の誕生といった生命進化における劇的イベントに着目した研究や、微生物のもつ未開拓な生命機能に関する研究を推進している。研究対象は幅広いが、一貫して、⼤規模ゲノム情報、⽣物情報学解析、系統解析を統合することで、微生物・生命機能の進化・⽣理・⽣態情報における新たな知見の創出、理論モデルの構築に関する研究を推進している。34歳という年齢でありながら、有機的な共同研究を基盤として、すでに60報の論文を発表しており、それらの中にはM&E誌に発表された4報の論文、また、共同主著や責任著者として、Nature、PNASといったハイインパクトな雑誌での論文発表が含まれる。Nobu氏は、劇的進化や未知⽣態的機能を具象化するモデルや仮説の着想を可能とする幅広い知識、各種ゲノム情報データ解析を駆使した強固な理論構築力、それらの高い発信力を有しており、高いレベルの各種研究を展開している。すでに、微生物生態学を代表する研究者として頭角を現しており、この分野を先導する研究者になっていくことは間違いないと期待される。
以上、本選考委員会は、上記3名の若手研究者を若手賞に推薦する。
第2回日本微生物生態学会若手賞選考委員会
委員長 鈴木 志野
委員 天知 誠吾、大塚 重人、福井 学、渡邉 一哉
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2024年10月28日から開催されます広島大会にて受賞者の皆様によるご講演が予定されておりますので、大会参加者の皆様におかれましてはご参集のほどよろしくお願い申し上げます。また、受賞者の皆様によります「受賞者の声」につきましても、後日、和文誌ならびに学会ウェブサイトにて掲載する予定です。
今年も各賞への積極的なご応募をいただき誠にありがとうございました。また、選考委員の皆様方におかれましては公正な選考をいただきありがとうございました。来年の公募の際も、皆様からのご応募をお待ちしております。
日本微生物生態学会事務局