受賞理由
自然環境中に生息する細菌や古細菌のほとんどは、現在の技術では分離培養が困難であり、その生態学的役割や生理・代謝機能はいまだに十分には解明されていない。これらの微生物は生物界の暗黒物質(microbial dark matter)と呼ばれ、微生物生態学では世界的に多くの研究者の注目を集めている。玉木氏は、多くの研究者が環境ゲノム解析などの非培養法に向かうなかで、効率的な未知微生物培養法の考案・確立にも取り組んできた。特筆すべき研究成果は、門レベルで新規な細菌 Armatimonas roseaを純粋分離し、新門学名を提案するなど、系統学的に新規性の高い微生物の分離培養に成功したことである。また、単独で石炭からメタンを生成する新規深部地下圏アーキアの発見とメタン生成代謝機能の解明や、糖尿病を誘起する未知腸内細菌の系統と生理生態機能の解明、細菌間コミュニケーションを遮断する新規多剤耐性菌の発見など、数々の優れた研究成果を上げている。また、M&E 誌にも、総説 1 報を含む計 11 報の優れた論文を発表している。研究業績だけでなく、玉木氏は学会事務局の役員、若手の会の世話役、評議員、大会実行委員、大会でのシンポジウム企画者、M&E 誌の Associate Editor など、学会全体を支える重要な役割を担ってきた。また、40 歳代前半という比較的若い年齢にも関わらず、多くの次世代研究者を育成している。
受賞者の声
Close Encounters of the Third Kind
玉木 秀幸
この度は第4回日本微生物生態学会奨励賞という名誉ある賞を頂き誠にありがとうございます。審査を頂きました先生方ならびに関係者の皆様に心から御礼申し上げます。また今回、(五十音順、敬称略)五十嵐健輔、伊藤英臣、加藤創一郎、菅野学、北川航、草田裕之、玉澤聡、中井亮佑、成廣隆、Masaru K. Nobu、眞弓大介、山本京祐、米田恭子の13名の皆様にご推薦を頂きました。また堀さん、菊池さんからは熱い応援を頂きました。私は本学会の事務局庶務幹事を担当させて頂いていることもあり、当初、応募は全くの想定外で、その意思もなかったのですが、昨年のクリスマスイブの朝、産総研の居室に来ると、私の机の上に”Merry Christmas”と書かれた包装袋が置いてあり、その中には本賞への応募書類の全てが用意してありました。それは上記の皆さんがサプライズで準備してくださったものでした。サプライズに気づいた時の、驚嘆、困惑、不安、驚喜、歓心、感動、感謝といった様々な感情が交錯しながらいっぺんに押し寄せてきて胸が熱くなり、こらえきれない想いで軽くパニック(感涙・挙動不審?)になったあの時のことは今もはっきりと覚えています。常日頃からよく飲み、良く語り、研究を共にしてきた先輩・同僚・若手の皆さんから推薦を頂いたことは、何よりも嬉しく、言葉では言い尽すことはできないのですが、ただただ心から感謝申し上げます。
さて、表題の”Close Encounters of the Third kind”は、映画「未知との遭遇」の原題です。本学会の若手会(2012年豊橋大会)に呼んで頂いた時にこのタイトルで講演をさせて頂いたのですが、今振り返ってみれば、私にとってほぼほぼ初めての依頼講演となったあの時が「未知微生物を培養して新たな生命機能を探る」ことを本気で生業にしようと、腹をくくった瞬間だったように思います。幸運にも、私は、未知の人々との遭遇(出会い)に本当に恵まれ、未知微生物探索研究の道にいざなってくださった恩師、先輩方に出会い、志を同じくする同僚、後輩の皆さん、そして所内外の公的・民間企業の共同研究者の皆様と共に、環境ゲノム情報解析技術を最大限活用しながらも、環境中の未知微生物の実態解明研究に携わり、興味深い未知微生物と驚くべき生物機能に”遭遇”する機会を頂きました。今回、奨励賞を頂きましたのも、一重に関係者の皆様のお力添えの賜物だと、心の底から深く感謝しております。そして何よりこの学会を通じて多くの個性的で素敵な方々に巡り会い、時に叱咤を、そして多くの激励を頂いたおかげで、なんとかここまでやってくることができたと感じております。この学会が本当に好きですし、本学会そのものに本当に感謝しておりますし、この学会に関わる全ての皆様に御礼申し上げます。また公私両面で支えて頂きました生物資源情報基盤研究グループの関係者の皆様に心から御礼申し上げます。今回の受賞に恥じないよう、本当に微力ではありますが、今後も「未知微生物との遭遇 –Close Encounters of the SMALL Kind-」を追い求めて、精進して参りたいと思っております。今後ともご指導ご鞭撻を頂けたら大変ありがたく存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。