石井聡氏
Assistant Professor Department of Soil, Water, and Climate,
and BioTechnology Institute, University of Minnesota
受賞理由
石井氏はアメリカミネソタ大学に博士課程の学生として滞在中、丹念なフィールドサンプリングを基礎にした研究、調査をもとに、大腸菌の環境中での動態についての研究をまとめ、博士号を取得した。この中で石井氏は大腸菌が土壌や藻類に付着することにより環境中で長期に生残あるいは増殖しうることを初めて証明し、大腸菌の分布が人間活動を反映したいわゆる糞便汚染指標菌として扱われていることに対し警鐘を鳴らした。学位取得後、東京大学に移ってから窒素循環に関する研究を開始し、シングルセル分離法、Stable Isotope Probing法、16S rRNA gene sequencing, 機能遺伝子解析、ゲノム解析などの最新の手法を駆使して、水田土壌における脱窒およびN2Oの還元過程について明らかにした。その後、北海道大学に移動して窒素代謝に関する研究を続け、排水処理系での脱窒、硝化、アナモックスに関わる研究に発展した。その一方で、学位論文の際に行った病原微生物関連の研究を再開し、マイクロ流体デバイスを用いて複数の病原細菌を検出・定量する技術を開発し、水界のリスクモニタリングへと応用した。これらの研究はEnvironmental Microbiology、ISME Journalなどの一流誌に掲載されるとともに、その実績によりアメリカ微生物学会出版会(ASM Press)からEnvironmental Pathogenに関する本の執筆、編集を依頼されている。
このように、石井氏はこれまでいくつかの異なる研究機関に身を置きながら窒素循環および病原菌の動態に関する基本的課題に対して最新の技術を駆使してその解析を行い、レベルの高い研究業績をコンスタントに発表してきた。これは同氏の卓抜な研究能力を示すとともに、今後の研究の発展も大きく期待できるところである。また、石井氏はMicrobes and Environments 編集委員あるいはKJT Symposiumでのconvenerとして、学会活動にも関わってきた。石井氏は現在アメリカ滞在中であるが、日本の若手研究者が積極的に世界で活躍していくことを期待する観点からも奨励賞に値すると考えられる。
こうした微生物生態学への科学的貢献、学会への貢献、研究者としての将来性を総合的に考慮し、石井氏に奨励賞を送る授与することが相応しいとの結論を得た。
受賞の言葉
この度は第一回日本微生物生態学会奨励賞を賜り、大変光栄であるとともに身の引き締まる思いです。選考委員の先生方をはじめ学会関係者の皆様、そして推薦してくださいました北海道大学大学院の岡部教授に厚く御礼申し上げます。また、受賞理由に挙りました研究をサポートしてくださいましたミネソタ大学Sadowsky教授、東京大学大学院妹尾教授、北海道大学大学院岡部教授および共同研究者の方々に深く感謝いたします。
私は微生物を利用した環境問題の解決に興味があり、この分野に足を踏み入れましたが、研究を進めるにつれ微生物生態学のおもしろさにも魅了されるようになりました。微生物生態系は複雑多様で難解であるがゆえに全容を解明することは困難が伴いますが、その一端を明らかにしたときの喜びは何事にも変えられません。
微生物生態学会は、そんな喜びをシェアすることができるまた貴重な場です。また、若手が多く活気があり、精力的に仕事をされている方も気さくに交流してくださる、私にとって刺激的な学会です。ここで様々な方に研究やキャリアに関してご意見いただけたことは貴重な経験となりました。多くの共同研究者との研究も学会大会(およびその後の飲み会)から始まりました。共同研究者に恵まれ、興味深い研究に携わることができたのも微生物生態学会というネットワーキングの場があったからに他なりません。改めて学会の皆様に感謝申し上げます。まだまだ若輩ものですが、これまでの経験を若手の方々に伝えていき、学会を盛り上げる一助になっていければと思っております。
これまでの経験を踏まえて若い方々へお勧めしたいことは、国内外を問わず分野が違っても、様々な研究者と積極的に交流することです。大御所の先生でも臆することはありません。皆、感性あふれる若手の方に魅力的に思ってもらえる研究をしたいと思っているので歓迎してくださるはずです。また、自分の研究分野以外の話も聞き、アンテナを広げて意見交換することで新しいアイデアが浮かぶことがあります。そのようにして構築したネットワークは研究を進めるうえで大きな財産になるはずです。
私は2015年4月から米国ミネソタ大学に異動し、新しいラボを立ち上げました。機器を揃え、人を雇い、新たなネットワークを構築し、研究費申請書を書く日々が続いています。成果が出るまでには時間がかかるかもしれませんが、今回の受賞を糧に研究に励んでいく所存です。そして多くの方に興味を持っていただける研究ができればと考えています。この学会で培ったネットワークを大切にして、研究を発展させていきたいと考えておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。