16S rRNA遺伝子だけで微生物群集の機能が推測できる! (Nature Communications誌2012年11月)
概要
地球上のありとあらゆる場所に微生物は棲息しています。しかしながら、それぞれの場所にどのような微生物がいて、どういう活動をして生きているかは謎に満ちています。ある環境中のすべての微生物のDNAを解析するメタゲノム解析は、その謎を解くための技術として注目される最新の解析手段なのですが、現在のところ誰でも簡単に利用できるというところにまでには至っていません。このメタゲノム解析を簡単に、かつコストをかけずに行うのがバーチャルメタゲノム法で、我々のグループが世界で初めてその開発に成功しました。この手法のキーになるアイデアは、ゲノム配列が決まった生物種の数が近年爆発的に増えていることから、それらのゲノム配列を用いてメタゲノムを近似できるというものです。ゲノム配列の決まった生物種の系統樹を用いて、対象となる16S rRNA配列から近縁種を推測します。その近縁種のゲノム組成を利用して、対象生物種のゲノムを推測します。ある環境中から採取された16S rRNA配列すべてについて、このプロセスでゲノム組成を予測し、それらを混合すると仮想的に作成したメタゲノムとなるわけです。
この手法を琵琶湖葦表面バイオフィルムの形成過程を追って同定された16S rRNA配列に適用すると、これまでにバイオフィルム形成過程について建てられていたモデルに驚くほど一致していたのです。この事実からバーチャルメタゲノム法の有用性が証明されました。現在は、このバーチャルメタゲノム法をインターネットを通じて簡便に利用できるサイト(http://vmg.hemm.org/)を構築しています。是非、皆さんの研究室に眠る16S rRNA配列をこのサイトを通して、メタゲノムに戻してあげてみて下さい。
リバイス過程での幸運
Nature Communications誌に論文を投稿した際のレビュワーからのコメントの中に、「同じサンプルから得られたDGGE由来の16S rRNA配列と実際のメタゲノムでの比較をしないと意味が無い」というものがありました。論文投稿時からこの問題は意識していたのですが、実際にメタゲノムを決めるとなるとそれなりの予算が必要で、当時はそれを工面することが出来ませんでした。しかし、論文投稿から最初のエディターの返事が来るまでの間に、それにぴったりフィットするデータを利用した論文が発表されていることがわかったのです。もしこのタイミングでその論文が世に出ていなければ、レビュワーへの返事に窮していたかもしれません。このような奇跡的なタイミングのおかげもあって、ようやく発表にこぎつけたのです。
図の説明:バーチャルメタゲノム構築法とバイオフィルム形成過程のデータへの応用
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Virtual metagenome reconstruction from 16S rRNA gene sequences
著者:Shujiro Okuda*, Yuki Tsuchiya, Chiho Kiriyama, Masumi Itoh and Hisao Morisaki(*責任著者)
DOI番号:DOI: 10.1038/ncomms2203
アブストラクトURL:
http://www.nature.com/ncomms/journal/v3/n11/full/ncomms2203.html